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もうこの体になって3年が経った。
当時、高校生2年生だったが、今は名門大学に通っている。
今もその登校準備の着替えの真っ最中だ。
3年前はブラック企業に勤める、しがない45歳のおじさんだった俺が、とある事故でこんなに可愛いお嬢さんになってしまった。
駅の階段でぶつかり、転げ落ちて魂が入れ替わった。
俺の元体は脳挫傷で病院に運ばれ、1ヶ月後に死亡。
そのまま、荼毘に付した。
この事故は俺もこの体の女性も悪くなく、ただ運悪く、連鎖的に押し出されて、転倒した結果だった。
駅の防犯カメラにもその様子が鮮明にうつっていた。
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本当なら、今日は俺の体の3回目の命日なので、お墓参りに行きたいと思っていたのだが、どうしても休む事ができない講義が午前中に入っていたので、午後からお墓参りに行くことになっている。
少し露出が多い服装なので、お墓参りには向かないと思ったが黒色のワンピースコートを上から羽織るので、そこまでおかしくはないだろう。
そんなことを考えられるようになった、と気付き、本当に女の子になったのだなと実感した。
オーバーニーを履き終えたら、軽く化粧をして、駅に向かうことにした。
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駅までの道はこの女の子の体では通いなれた道
でも、もともとの体では一度も通ったことがない道。
最初の内はいろいろと考えて、元に戻りたいと思っていたが、今は諦めている。
いや、この体での生活を望んでいるのかもしれない。
だって、この女の子として生活していて、幸福を感じることが多くなっているからだ。
先日だって、彼氏だってできた。
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もちろん彼氏に『彼女の中身はおじさん』とうことはカミングアウトしていない。
それは、この体こと『双葉』の家族にだって言っていない。
知っているのは俺だけなのだ。
駅に着くといつもの様にプラットフォームの列に並ぶ。
今日の午後のことを考えていると、双葉の小学生からの友人の佳那(かな)が話しかけてきた。
「おはよう!」
いつもの元気な佳那の声がした。
「おはよう」
俺も挨拶をかえすと、佳那は「今日は元気ないね」と心配そうに聞いていた。
さすが親友だ。双葉(俺)の少しの変化にも気付いているようだ。
佳那とは小学校、中学校、高校、大学と一緒の学校に通っている友人だ。
俺とは高校からなのだが。
それは佳那も知らないし、これからも知ることはないだろう。
でも、双葉の中身が俺になった時に、一番はやく違和感に気付いたのがこの佳那だったが、さずがに中身が変わった事なんて現実的ではないので、いつのまにかその違和感を受け入れてくれていた。
「今日、命日なの。あの人のお墓に午後から行こうとおもっているの」
そこまで言うと、佳那は「そっか」とだけ答えて、あとはいつものように明るい話題を話しかけてくれてきてくれた。