5b308160 No.548
コンクリートのような冷たい床の感覚で目を覚ます。
ここはどこなのだろうか。全身が水色の粘液のようなもので覆われているようで、視界すらそれに遮られるせいで周囲の様子がうまく確認できない。
確か俺はいつものように会社に行き、その日も夜遅くまで残業していたはずだ。
何とか明日までに必要な資料を作り終えて、終電を逃すまいと疲れでふらつく身体に鞭を打ちながら走って、ホームまでの下り階段でうっかり足を滑らせて――
(そうか……俺、死んだのか。それで、確かその後は……)
朧気だった意識が段々とはっきりしていくにつれて、俺は自分がどうなってしまったのかを少しずつ思い出していた。
死んだと思った次の瞬間には真っ白で何も無い空間に立ち尽くしていて、そこで俺は女神を名乗る胡散臭い美女に出会ったのだ。
「異世界転生って言えば分かりますよね?」なんて説明責任を放棄したような台詞を吐いた彼女はおもむろにカードの束を取り出すと、そこから適当に引き抜いた一枚を俺に渡してきた。
そこには≪転生先:スライム 能力:吸収融合≫とだけ書かれていて、説明を求める間もなく俺は粘液の塊へと姿を変えられるとこの『異世界』に放り込まれたのだ。
(吸収融合ってことは……多分、この身体はあの女の子の物なんだろうな。まさか女になっちまうとは……)
ふと視線を下に降ろせば、そこにはどろどろの粘液に覆われた巨大な乳房が。どうやら少しずつ吸収した相手の姿に近づいてきているようで、半透明の水色だった肌は少しずつ人間のそれへと変わりつつある。
5b308160 No.549
恐らく、スライムの身体に脳にあたる部位が存在しなかったからなのだろう。
異世界に生まれ直した俺は前世の記憶も人としての理性も忘れ、ただ本能のままに生きる矮小な魔物に成り果てていた。
地面をずりずりと這いずり回りながら栄養になりそうな木の実や小動物の死骸を見つけては取り込み、人間や他の魔物から身を隠しては生き延びるだけの日々。
偶然見つけたこの廃墟に入ったのもその本能によるものだ。粘液で構成されているせいか、この身体は暗くてじめっとした場所を好むらしい。
そこで倒れていた狐耳の少女を発見し、初めて目の当たりにした栄養豊富そうな人間の新鮮な死体を前に興奮しつつその全身を取り込んでいって――
あくまでも推測だが、その結果人間の脳を手に入れたおかげでこうしてかつての自我を取り戻すに至ったのだろう。
「ごぼっ!?けほっ、けほっ……。あー、あーあー、コホン」
喉奥から込み上げた粘液の塊が吐き出されるのと同時に首の中で空気の通り道が形成され、試しに声を出そうとしてみると鈴のような声が発せられる。
どうやら体内までもが完全に作り変わったようで、俺はさっきまで無かったはずの心臓が胸のあたりで鼓動を開始したのを感じていた。
生命を動かす心臓がある。声を発する喉も、手も、足も、頭も。スライムの時には無かった部位の存在を確かに感じられて、久しぶりに人間に戻れたことへの感動が込み上げて少しだけ涙腺が緩む。
と、同時に。元の身体には無かった部位への違和感も俺は感じていた。
元の世界の人間にはあり得なかった、動物のような耳とふさふさの尻尾がある感覚。そして男の自分には無縁だったさらさらとした長い髪に、さっきからずしりとした重さを伝えてくるこの巨乳。
股間にぶら下がっていた相棒はすっかりと消え失せているが、そこに存在していたはずの玉に似た何かが下腹部の中にあるような奇妙な感覚もする。
7bfa3aa7 No.552
新鮮な死体で脳の欠損もなかったため、この少女の記憶も得ることができた。
盗賊から誘拐され、身ぐるみをはがされ、そして犯されて、死んでしまったようだ。
そして、その後この洋館に捨てられたのだろう。
この取り込んだ体の記憶が知識として、見ることはできるのだが、もともと街から外れた農村で育ったこの少女の知識はあまり多くなかった。
そんなことを考えながら、記憶を探っているとていると『スキル』と言う単語に興味をひいた。
異世界転生と言えば、これだ。
cba6cb1b No.561
『スキル』とは同じものが二つとない特殊能力のようで、俺が女神によって与えられた『吸収融合』もそれに該当するのだろう。
どうやらこの世界の人間でも全員がスキルを持っているわけではないらしいが、幸運なことに俺が吸収した狐耳の少女――タチハにはおあつらえ向きなスキルが備わっているようだった。
それは『食べた物の情報が分かる』というもの。
生前のタチハは料理に入っている野菜が誰の畑で採れたものだとか、隠し味に何を入れたかなんてことを当てては話のタネにしたりといった微笑ましい使い方をしていたようだ。
「ははっ、すげえ……俺にとってはチートスキルでしかないな」
そう、人間が口にするものと言えば農産物や家畜の肉なんかが主だろうが、今の俺は人間の死体すら取り込んで栄養にできるスライムなのだ。
試しにスキルを使ってタチハに関する情報を知ろうとすれば、記憶には無かった彼女の情報が欲しいままに浮かび上がってくる。
事細かな身長体重、体脂肪率、身体能力や病気の有無。スリーサイズや性感帯の場所なんてものまで知れたのは、恐らく使っているのがそういった情報に興味を持つ俺だからなのだろう。
情報は身体にまつわるものだけにとどまらず、簡単な生い立ちや住処、スキルまで分かるようだ。
これさえあれば今後吸収する死体の状態がどれだけ悪かろうと、最低限の情報は容易く得ることができるだろう。
cba6cb1b No.562
「とは言ってもなぁ。いきなり異世界で生きていけって言われたって、何をすればいいのか……」
文字通り死ぬまで働かされた社畜人生から解放されたのは心底嬉しいが、同時にそれに対する不安もあった。
上司に与えられた目的をただただこなすだけの日々、それに俺は多少の充足感を感じていたのだ。
それならタチハが住む農村に戻って気ままなスローライフでも送ってみるかとも思ったのだが、記憶を掘り返してみれば彼女が攫われた時には略奪やら放火やらで酷い有様になっていたようで――
「そうだ、あの盗賊共……」
ふと、借り物の心臓がちりりと焼け付くように熱くなり、今まで味わったことがないような激情が込み上げてくる。
きっとこれはタチハの感情なのだろう。慎ましく平和に暮らしていただけなのに突然襲われ、目の前で大切な家族を殺され、散々慰み物にされた後でゴミのように捨てられた。
もはや俺にとってタチハは他人ではない。記憶も身体も同じ物を持った相手、そして何より俺をスライムから人間の姿に戻してくれた恩人とも言える存在なのだ。
これから先、何の目的もやりたいことも特に無いのだから、せめて彼女への餞に復讐を果たしてやるのも良いかもしれない。
タチハの死体には盗賊によるものであろう数人の精液が残っていたため、それを死体ごと吸収した俺はスキルによって奴らのアジトや行動範囲なんかを知ることができていた。
とはいえ、流石にただの村娘だったタチハの身体のまま無策で挑んでは二の舞になってしまうだけなので、ある程度の準備は必要だろう。
……まずはこの目のやりどころに困る裸を隠すための衣服を探したりだとか。
66b8fd2f No.572
全裸のまま洋館内を探したが、着れるような服はなかった。
あったのは、腐乱した死体と腐りかけの死体。
そして、それらが着ている傷んだ服。
いや、服とは言えない。
ただ血痕と暴力で破れている傷んだ生地と言ったほうがいい。
どうしよか悩んだが、あることを思い出した。
《能力:吸収融合≫でそれらを吸収して、ひとつの服にすればいいんだ。
それから、体の一部をスライス状にして洋館内の死体から、その服等を吸収して回った。
全部の死体を吸収したら、とりあえずは外に出ても問題ないぐらいの服を作り出すことができた。
それに、死体からでもスキルをえることができたみたいだ。
だから、タチハの『食べた物の情報が分かる』で解析をしてみた。
66b8fd2f No.588
得たスキルは『幻覚催眠』といったものだった。
その名のとおり相手に幻覚を見せる能力みたいだ。
使い所は難しそうだが、何かあった時には使えそうな能力だ。
狐耳の少女――タチハの姿のまま洋館を抜け出した。
とりあえず盗賊がくることはなさそうだが、念の為にこの洋館から離れることにした。
それから、いろんなモンスターに出会ったが、スライムの能力で相手を吸収しつつ、なんとか生き延びた。
洋館を出て、1週間後。
焚き火の明かりを確認した。
恐る恐る近づきながら、どんな集団なのかを探ることにした。
66b8fd2f No.629
#1 勇者一行
勇者、魔法使い、戦士、僧侶の4人パーティー。
#2 奴隷商人と奴隷達
いろんな奴隷(体力系、美人系、亜人等系)と奴隷商人。奴隷商人の警護もいる。
#3 騎士団
モンスター退治のために王都から派遣された皇女様(騎士)と部下の騎士団
#4 その他
c475af15 No.650
さて、どうしたものかを考える。
この斥候エルフを吸収融合して、斥候エルフになりすましてこの集団に潜入してみようか。
それとも狐耳の少女のタチハの姿で助けを乞うてみようか。
それとも、ここ集団から距離をとり、別の街に向かおうか。
いろいろと悩む。
勇者一行と騎士団だから、俺がモンスターのスライムだとバレたら、速攻で討伐されてしまうだろう。
でも、それだけの戦力があるのだから、吸収融合できたら、かなり強くなる事が出来る。
皇女様になりすます事が出来れば、国の中枢にだって行くことができる。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、だがまた死んでしまったらしょうがない。
そんなことを考えていると、斥候エルフの仲間らしき人物が近づく気配がしてきた。
1f5944c9 No.652
その瞬間、ぞわりとした感触が俺の全身を走り抜けた。
俺は一瞬で体をスライムに戻すと、なるべく薄く地面に広がって体を目立たないように変化させていく。
「なんだ、邪な気を感じたが……おい、どうした?」
やってきたのはどう見ても十代半ばほどの日本人の少年だった。だが、纏うオーラが彼が勇者であることを示していた。
「……はっ!? あぁ、すみません勇者様。少々呆けてしまったようです。いやぁ、姫様の護衛で疲れてしまったのでしょうかねぇ」
「なんだ今のは……気のせい、か?それとも去ったか……いや、なんでもない。さぁ、野営地に戻ろう、そろそろ食事ができるころだ」
そう言うと、勇者と斥候エルフは身を翻して戻っていく。
……危なかった!体を走り抜けた鋭く冷たい殺意にすくんでしまった。あのまま身を隠していなかったらたとえタチハの姿だったとしても即座に見抜かれ消滅させられていた。そう確信できるだけの力量が彼にはあった。
急速に思考が冷えていく。たった一匹で魔物退治の備えをした勇者と皇族の護衛をなんとかできるなんて傲慢に過ぎたのだ。
そもそも、姫様を取り込み国の中枢に入ったとして何がしたいのだ、俺は国がほしいのか?
感性が魔族に寄り過ぎた結果、欲が前に出すぎて危機感すら薄れてしまったのか!?
たしかに欲望に正直になるのはいいことだろう、だがそれと無謀はまったくの別だ。
俺は無様に広がる粘液の姿のままゆっくりと、気づかれないように地面を這いずりその場をあとにする。
俺が何をしたいのか、それを冷静に考え直す必要がある。
だが、いつかあの勇者に目にものを見せてやりたい、という反骨心が芽生えた気がした。
261d7bf1 No.665
金髪美人の薬師フターバとして花屋さんで働きながら情報収集することにした。
なお俺は森でモンスターに襲われて記憶喪失である事にしている。
この街ファースターに住んでいたのでは無かったようだが、冒険者ではなく戦闘の心得もない
薬師のフターバがファースターから半日の距離しか離れていない森で薬草回収の為に森に入ったにしてはあまりにも軽装だった事から
あの森から離れていない別の街に住んでいる(住んでいた)に違いないからだ。
b3016c40 No.686
「ありがとな」
盗賊らしき人物は笑顔でフターバからエールを受け取る。
「追加の料理とかはいかがですか?」
そのテーブルの会話を少しでも聞き取りたかったため、注文の質問をする。
エールを受け取った盗賊は「そうだな、、、」と悩んでおり、その時に同じテーブルの盗賊達が、
「前の村はたいしたものはなかったな」
「獣人たちはあまり高値で売れないかったしな」
「次はどうする?」
「勇者達と皇女様が近くに陣取っているから、あまり無茶はできないしな」
といった会話が聞こえた。
f3f109b2 No.712
それから、何度かエールと食事をそのテーブルに運ぶことで、アジトとしている場所の情報を得ることができた。
キーワードとして出ていた、『売春宿の用心棒』、『貴族様愛用の高級店』、『エルフがいる店』の3つで、『黄金の風見鶏』という宿を根城としていることがなんとなくだが分かった。
『黄金の風見鶏』は男エルフがオーナーをしている高級宿として知られているが、花屋で働いていた時に聞いた噂では、裏では美人どころを集めた売春を派遣している店の話があった店だ。
なので、アジトがそこであることは間違いないだろう。
酒場の仕事が終わり、ベッドに横になりながら考える。
アジトが分かったが、どのようにして潜入して、それを確定させるかが問題だ。
今の能力だと、盗賊の一人二人をやっつけたぐらいのところで、数の暴力に負けてしまう可能性が高い。
さて、どうするか?そんなことを考えていたが、その夜はいい案は思いつかなかった。
23c903ad No.717
やはり今以上に強くなるしかない。
奴等になくて俺にあるモノ…。
【吸収融合】能力!
しかし魔物や死体ならともかく、生きた人間を吸収融合するという事は相手を生命や肉体ごと奪い盗るという事!
復讐したい憎む相手を倒す為に奴等と同じ事など…他人を犠牲にする事など絶対できない。
クソッ、何かないか!?
「ステータスオープン!」
スキルやスライムの身体の能力を改めて入念に精査し調べる。
※ちなみにステータスオープンは転生者だけの独自のものらしくタチハもフターバの知識にはなかった。
※タチハになって無意識で自然と使えた。
「何かないか…」
無意識で口に出た言葉だったが突然脳内とステータス画面に
【回答:1件の該当有り。
吸収せずに体内に取り込み、入り込み能力をコピー、自身にペーストする方法がスライムであるマスター清彦にのみ可能。
なお、その状態では対象者の身体を着ぐるみのように纏う為、対象者の容姿となる。
コピーはコピー対象のレベルに応じて時間が掛かる方向な為、注意が必要。
なお、コピーしても体外離脱した瞬間から徐々に能力、スキルが消去されるので消去されるまでの間に可能な限りの反復訓練して身体で覚える、習得を推奨する】
23c903ad No.718
びっくりした!!
喋れるのか!?
あっ…確かに俺、ステータス画面で状態表示だけ見ていただけで、質問とか検索とかした事なかったわ。(苦笑)
f4b65e12 No.767
これはいいことを教えてもらった。
次からこの対象を皮化させる能力も使わせてもらおう。
夜は酒場で働いているので、仕事は夕方前に行くことになる。
それまでの時間は情報収集と皮化させる対象探しに街をぶらつくことにしてみた。
街の中心部近くで行われているバザーで店を回っていると、知っている顔を見つけた。
その人物は斥候エルフ。
斥候エルフは一人で買い物を楽しんでいるように見えた。
怪しまれないように様子を見ようとおもったが、相手も斥候のジョブの持ち主なので、俺の視線に気が付いたようだった。
どうしようか?ばれたか?
緊張をしたこちらの表情を読んだのか、「どうしましたお嬢さん?」と、やさしく話しかけてきた。
あぁ、よかった、ばれていない。
「すみません。知り合いに似ていたので…つい、見入ってしまっていました」
そんな、ありきたりの言葉でごまかしたのだが、なんと斥候エルフはその嘘を信じたようで「そうなんですね。」と返事をしてきた。
(そうだ、この斥候セルフを皮化させて能力をいただければ、盗賊の拠点に入り込むことができそうだ。)
(でも、どうやって、おびきだして皮化させるか。)
(そうだ、以前こいつには『幻覚催眠』をかけたことがある。なら、それを再度使えるはずだ。)
その、妙案を実行することにした。
9ca98311 No.773
「わたしそこの酒場で働いているんですけどまだ営業前で時間があるんです。
エルフさんは冒険者ですよね?食事ご馳走しますからお話とか聞きたいです♪」
街の住民が冒険者に冒険話等の話を聞くことは多い。
インターネットもラジオもテレビも無い世界だからな。
娯楽みたいなモノだ。
「いいよ♪」
斥候エルフの少女も快諾してくれた。
「わたしの名前はフターバ、昼間は花屋さんで夜は酒場で働いているの」
「ボクの名前はワカーバ、なんと勇者様と一緒に冒険している…ん…だ…………」
歩きながら話し掛け、通りの人目につかない路地で
幻覚催眠を掛けた。
「悪いね。ちょっとワカーバの身体とその能力を貸してくれ」
9ed9973d No.827
そして、再度だれもいないことを確認してワカーバを皮化させた。
皮化をさせた方法、その対象に「皮になれ」と日本語で命じるだけで、数秒でワカーバは皮になった。
ワカーバの皮を手早く丸めて、ワカーバの武器などと一緒に魔法バックに入れ込んだ。
部屋に戻り、ワカーバの皮を広げ、スライム化して口の部分から中に入り込んだ。
すると、すぐにワカーバの皮とスライムの体が一体化して、見た目は本物のワカーバができあがった。
3ed4ab61 No.837
酒場の営業時間までまだ間がある。
また斥候エルフのワカーバが勇者パーティーに戻る時間的余裕も
ワカーバが食事したりフターバに冒険話をするくらいの時間はあるから大丈夫だろう。
皮化して斥候エルフのワカーバの身体になったのだ。
この身体の試運転を兼ねて高級宿の『黄金の風見鶏』に忍び込んでみよう。
84037991 No.901
『黄金の風見鶏』の周りには結界とまではないが、ある一定以上の魔力の持ち主が入ると、警告がなる魔法障壁が設置されていた。
これはワカーバの斥候としての知識が教えてくれた。
この世界では、それなりにスタンダードな結界魔法障壁みたいだ。
もともとはモンスターの侵入を知らせる目的で使用するのだが、『黄金の風見鶏』ではモンスターだけではなく、ある一定以上の能力を持った人間にも発動するようにセッティングされていた。
あぶなかった。
何も知らずに、フターバの姿でこの『黄金の風見鶏』に近づいていたら、あっさりスライムとして討伐されていただろう。
66b8fd2f No.941
まずはワカーバの身体能力を使って、黄金の風見鶏の外見から、屋敷の見取図をイメージしていく。
高い視力を使って視覚的に。
今までの経験を使って建物内の部屋の配置を。
魔力感知を使って建物内の人の動線を。
そんなこんなで、だいたいの部屋の配置は検討がついた。
わからない場所は地下と最上階の一部。
おそらく、地下がアジトで最上階は黄金の風見鶏の支配人室になっているのではないかと推測した。
201256c7 No.964
あの女性はフターバとして花屋さんで働いていた時の常連のお客さんだ。
たしか、サファリと名乗っていたと記憶している。
花を買いにきていたのは、病に臥している彼氏のために、毎日のように花を買いに来ていた。
あんな美女に気に入られているなんて、贅沢な男もいたもんだ、と思っていたことを思い出した。
でも、花屋にくるときはあんなに着飾っておらず、町娘といった感じの服しかきていなかったはず・・・。
そんなことを考えながら、サファリが宿の中に入っていく様子を眺めていた。
1bb6b157 No.973
(サファリさんを皮にして着込み、俺がサファリとして堂々と入店するのはどうだ?
サファリさんに幻覚催眠を掛けていつも通り客の相手をしたって思い込ませ、
サファリさんの客相手にも幻覚催眠で激しいプレイで快感で気を失ったって思い込ませて眠らせれば2時間は館内で活動できる。
魔物の魔力を感知し発動する対魔物探知結界も
能力探知結界の魔法障壁も外部からの侵入には強くても、館内部に入り込んでしまえば関係ない。
スライム状態で行動し放題だ!
1bb6b157 No.975
またエルフの皮をワカーバを着込んでいる事で魔物の俺でも魔法障壁に探知されることも、
結界に焼かれることも無く、先ほどは易易と結界を通り抜けられた。
偵察も成功したしワカーバの身体の試運転も大成功だ。
俺は黄金の風見鶏の関係者や盗賊団の誰にも気付かれる事無く、街に帰還した。
先ほどの路地に到着して周囲を確認。
安全を確認してワカーバの皮を脱ぐ。
脱いだ皮のワカーバがペラペラの状態からムクムクと膨らみ元通りになる。
時間にして10秒ほど。
無意識状態で起き上がり、焦点が定まっていない瞳に意思が宿る。
「ゴメン。ちょっと呆けてた。うわの空だったよ。」
皮になっていた間の記憶は無いようだ。
催眠を掛けて確認したがやはり皮になっていた間の記憶は無い事を確認した。
「ワカーバさんの好物ってなんですか?お店のメニューにあればご馳走しますよ」
「本当?冒険話だけでそれは悪いよ」
「いいんですよ♪私にはそれだけの価値とお礼がしたいんですから♪」
1d088f41 No.998
斥候エルフのワカーバと食事をしながら、勇者とお姫様騎士の情況を聞く。
いろいろと教えて貰い助かった。
守秘義務は!?とも思ったが、この世界にはそんな考えはあまりないのだろう。
ワカーバと別れた後は、花屋で花屋の主人からサファリのことを聞きてみた。
aa401559 No.1101
「これはいったい….」
サファリさんのことを聞き回って数時間後、俺は木陰で考察をしていた。
花屋の主人が知っていた情報はサファリが彼氏のために花を買っていることだけであった。これはすでに持っている情報だ。
新情報を得るため、花屋の主人以外にも10人ほどの町人へ話を聞いたが、口を揃えて同じことを言っていた。
そして、町人にはそれ以外の情報が一切合切知られていない。サファリがどこで暮らしているのかも。サファリは何が好きなのかも。サファリの彼氏の名前も。
これは何かが隠されている。
「おや、考え事ですかフターバさん」
俺に親切なトーンで男が声を掛けてきた。顔をよく見るとその人は俺にギルドについて教えてくれた門番であった。
「こんにちは、門番さん」
「うむ、こんにちは。今日はオフだから門を守っていないがな」
ワハハと笑う門番は悩んでいた俺を心配してくれたらしい。下心を感じさせない笑い方から、某コミニケーションゲームの森の住人を連想してしまう。
「ここ最近は奇妙な誘拐事件が起きているから、ボーとしていると危ないぞ」
「奇妙というのは?」
「ああ、実は女性だけではなく、男性も誘拐されている事件が多発しているんだ。不思議なことに一家全員が誘拐される事件もあるんだ」
その瞬間、俺はサファリの正体についてある結論が思い浮かんだ。これは俺が転生しているからこそ、考えに浮かんだのだ。
俺は門番の手を訴えるように握る。
「門番さん、名前教えて」
「私はティーニャだが」
「そうじゃなくて、誘拐された人たちの名前を教えて。できればその人たちの似顔絵も」
しまった。盗賊団のことに絡んでいると考えたことにより、フターバの感情が大きく出てしまった。
門番ことティーニャは俺の必死な顔を見て、真剣な顔になって答えた。
「わかった。資料をまとめている場所が門の近くにあるからそこに案内をしよう」
ecbc03da No.1124
門番のティーニャに連れられ、街の警備隊が保有している建物の前にきた。
しかし、ティーニャは俺を建物内に入れず、資料を持ってくるから外で待っているようにと指示してきた。なんでも、室内が男臭くエロ本とかが散らかっていることと、一般人には見られてはいけない資料があることを伝えてくれた。
前世が男である俺は散らかっていようが匂いが臭かろうが気にしないが、前世が社会人であった俺は機密事項の大切さを理解している。一度だけ同僚が漏らした結果、それはそれは面倒くさい状況となり、俺らの会社内の人の残業量が増えたことがあった。
とりあえず待つこと数分、扉から十数枚ほどの紙を持ったティーニャが出てきた。
「すまない。待たせたな」
これをと言ってティーニャは資料を渡してきた。俺はお礼を言うとすぐに似顔絵を見た。
そして、俺の考えが答えにリンクしていく。
一枚の似顔絵に描かれた男性の顔がサファリさんにそっくりであったのだ。
6fb5a5ad No.1128
花屋でフターバで見た時も、斥候エルフのワカーバになって黄金の風見鶏で見た時も
サファリさんは間違いなくエルフの美女だった。
だがこの一枚の似顔絵に描かれた男性の顔がサファリさんにそっくりである理由。
それは…。
30471ced No.1157
『性転換』
俺はあまりにもファンタジーなことを心の中で呟いた。
しかし、《吸収融合》というチート能力によって俺は、タチハとフターバの体になることができる。他人の性別を変えるスキルがあっても不思議ではない。
「フターバさん、もういいかい?」
ティーニャに声を掛けられて、思考を現実に戻す。
「ありがとうございます。これはお返しますね」
「返さなくていいよ。その資料はフターバさんが持ってほしい」
「この事件は門番の私達だけでは絶対に解決できない。急な外客や怪しい商人の行き来が連日のようにおこなわれるため時間がないからだ。今日は暇だったが、休みの無い月があったりする」
「・・・」
「私の勘であるが、フターバなら解決してくれると思っている。もし、危険が生じると感じた場合は私達を頼ってくれ」
「ありがとうございます」
俺はティーニャに感謝して、その場を後にした。
81113d11 No.1183
「フターバちゃん、お酒のおかわりちょうだい」
「はーい」
夜になり、勤め先の酒場でアルバイトをしていた時だった。ワカーバが来店してきたのだ。
ワカーバはお酒を一人でグビグビ飲みながら、ちらちらと俺の方を見てきた。何かがあって、その愚痴を俺に聞いてほしいのだろうか。
「どうかいたしましたか、ワカーバさん」
「ねえ、聞いてよフターバちゃん」
ワカーバは一人で今やっている仕事についてをベラベラと話し始めた。それは俺にとって必要な情報であった。
内容は以下のとおりだ。
・勇者達は指名手配されている男を探してこの街を訪れた。
・指名手配犯は凄腕の魔術師であり、特別な魔法を使える。
・今回は秘密裏に遂行するため、勇者パーティと皇女様のみしか真の目的を知らなかった。
・しかし、彼らは魔術師の尻尾を掴めずにいたため、斥候であるフターバ含め4人に情報を共有し始めた。
・フターバは今まで秘密を共有してくれなかった勇者達に対して拗ねている。
81113d11 No.1184
>すみません、最後の部分はワカーバです。
ecbc03da No.1229
仕事が終わった後、宿屋で見取り図を広げる。見取り図はワカーバの体で潜入した『黄金の風見鶏』を後で、紙に記したものである。
指名手配の魔術師がいるとの情報から、『黄金の風見鶏』に特殊な結界魔法障壁が張られる理由と方法がわかった。
しかし、見える問題が出てきた。盗賊と手を組んでいる魔術は並の冒険者より強いらしい。いきなり無策で挑めるようなら、俺は前世で残業続きの本職をとっととやめている。
これからの方針は、
#a) 洞窟や冒険ギルドに行って、自身の戦闘能力をあげる
#b) 強い人または魔物を吸収融合しスキルやカラダを得る
#c) 勇者の仲間であるワカーバまたは門番のティーニャに盗賊の情報を共有させる。もしくは協力を要請する。
#d) 魔術師を油断させて暗殺をする。
#e) その他
470e9821 No.1231
#a) 洞窟や冒険ギルドに行って、自身の戦闘能力をあげる
# +
#b) 強い魔物を吸収融合しスキルやカラダを得る
このファンタジーがリアルな異世界で冒険とか楽しんだり
のんびりまったり平穏に、この美しいタチハやフターバの身体で過ごす事が俺の新しい人生だが
俺をただの野生のスライムから人間に戻してくれた、この身体を与えてくれた大恩人のタチハの無念、怒りは同時に俺の無念、怒りでもある。
盗賊団の奴等をタチハと同じ目に合わせてやりたいのが目的だ。
冒険を楽しむのも、異世界のんびりライフも復讐が完了してからだ。
この復讐はタチハと俺の個人的なものだ。
だからワカーバやティーニャは巻き込めない。
だから俺とタチハは強くなる。
倫理的に俺も私も人間を吸収するのは抵抗感があるので人間を吸収するのは悪者だけにしておこう。
吸収するなら強い魔物。
しかもヒト型なら尚良い。
そう言えば街から3日ほどの距離にある洞窟で凶暴なミノタウロスが出たと酒場で話題になっていた。
よし、ミノタウロスを吸収してパワーアップするとしようか。
何も真正面から戦って勝たなくてもいい。
隙を見て取り込めばよいのだ。
調べた限りこの世界のスライムを含めて魔物の中に吸収&乗っ取り能力を持つモノはいない。
だから対策も対抗する術も魔物は持たない。
遭遇しても俺=タチハを非力な弱い人間のメスと判断したミノタウロスは警戒もせず隙をみせるだろう。
ecbc03da No.1232
俺は洞窟に行くために、アルバイト先にしばらく休むことを伝え、冒険者用の小型ナイフやロープ等を買った。スライムの俺に必要無いかもしれないが、初めて異世界の洞窟に行くのに不安であったからだ。備えあれば憂いなしだ。
ちなみに買った道具は『吸収融合』で保管できる。ステータス画面で質問した結果、非生物であれば保存することが可能らしい。
町の門を出るとき、ティーニャが俺の検問をおこなった。俺が町を一度離れることを話したら、ティーニャは心配して魔法道具を一つくれた。投げると眩しい光を放つ逃走用の道具らしい。これはのちのち役立つ可能性がありそうなため、非常にありがたかった。
俺は町から距離が離れた人目のつかない場所で隠れ、野鳥に変身した。俺とタチハは少しでも早く盗賊達を倒したいため、野鳥の素早い速度で洞窟へと向かった。
fbb06d98 No.1265
普通なら3日掛かるところを半日で洞窟前に到着した。
変身しているところを目撃されないように付近の様子を伺っていると悲鳴や逃げてくる足音が聞こえてきた。
「なんだってあんなレベルのミノタウロスがこんなところにいるんだよ!」
「ヤバいぞアレは!」
「王国騎士団や王国軍の軍団でないと討伐できねえだろ!あんなの!!」
「待ってぇ~、行かないでぇ~」
女冒険者達は逃げる途中で少しでも身軽になる為に装備を捨てたのだろう。
半裸同然の格好の者もいた。
「全員揃ったな?逃げるぞ!」
緊急脱出用の帰還術の魔法陣が書かれた洋紙を拡げると討伐パーティーのメンバーが転移していった。
あの緊急脱出用の魔法陣の洋紙、フターバの収入だと3年は働かないと買えない金額だぞ?
名の知れたパーティーだったがそんな連中が緊急脱出用の魔法陣を使ってまで逃げ出すレベルかよ。
と物凄い威圧感のある咆哮が洞窟から響いてきた!
確かにこりゃ凄い。
背筋がゾッとする。
だがだからこそ俺はタチハの姿になると洞窟に潜入した。
ecbc03da No.1275
洞窟内は一本道であったので、ミノタウロスはすぐに見つかった。一方、ミノタウロスもこちらに気づいたが、ミノタウロスは動かずにただただこちらを見ていた。
ミノタウロスのいたエリアは東京ドーム一個分と喩えられそうなぐらい広かった。そして、遮蔽物はいっさい無かった。
石ころ一つも落ちていないくらい平らに整った床であったが、十数人以上の死体が散らばっていた。当眼で確認したところ、全員の性別は男であった。
「貴様は、獣者の皮を被った魔物か?」
無言でいたミノタウロスが突如、質問してきた。それどこか俺をの正体に近づいていた。
「俺はタチハだが、中身はスライムだ。どうしてわかったんだ」
俺はミノタウロスに俺がスライムである正体を明かした。不意打ちで吸収しようと考えていたが、会話ができるなら別だ。正直なところ魔物側の情報が欲しかったのだ。
「魔の物特有のオーラを隠されていない。魔物であることを周囲にアピールしているものだ」
「そうなのか。それを隠す方法はあるのか?」
「簡単だ。自身のオーラを隠そうと意識していればよい」
こうして俺はミノタウロスから、オーラを隠す方法を学んだ。最初に勇者へ接触しようと近づいた瞬間でばれたが、魔物のオーラを消したので、次からはバレにくいだろう。
3b10b4d0 No.1285
「オーラを隠す方法がわからずに人間の味方をするとは。さては貴様、『天使の忌み子』だな!」
「『天使の忌み子』ってなんだ」
「異なる世界の魂を持った魔物のことだ」
「それって、俺以外にも転生者が居るってことか?」
「俺は貴様以外の転生者とやらを知らんし、『天使の忌み子』もあくまで伝説上の存在だとされている」
ミノタウロスが嬉しそうにニヤリと笑った。
「俺は今から伝説上の奴と戦えることにワクワクが止まらない。『天使の忌み子』は最強格の強さを誇るらしいからな」
「うおっ!」
ミノタウロスがいきなり俺に向けて拳を振り下ろした。間一髪受け身で避けれたが、パワーが強すぎる。床のひび割れを見るに、かわしてなかったら、ぺっちゃんこだっただろう。
俺はプランを変更して、冒険者の死体を吸収融合していくことに決めた。冒険者のスキルに突破口を求めてだ。
f77aaf6f No.1286
ちゃんと弔ってやれなくてすまない。
アイツを倒す為に、お前達の無念や悔しさを晴らす為に俺にお前達の力をくれ!
全ては吸収できないから血溜まりや肉片を掴み取り込む!
スキルや技能だけだが確かに取り込む度に俺の力が、スキルや技能が上がっていく!
f77aaf6f No.1288
とはいえまだまだだ!
だが確実に回避が洗練され体のキレが明らかに向上しミノタウロスの動きが見れるようになってゆく。
やられた冒険者のひとりひとりはこのミノタウロスから見れば弱者だっただろう。
だが俺が冒険者の亡骸に触れる度に強くなっている事を俺自身が実感している。
ミノタウロスは最初、俺が何をしているかわからなかっただろう。
無様に逃げ回るが時折冒険者達の亡骸に触れてはまた逃げ回るのだから。
だが俺の動きがいつの間にか良くなっている事に気付いようだ。
94a21c9e No.1301
『剣術スキルが七つ揃いました。同一スキルの融合を開始いたします』
スキル回収のための最後の死体に触れた時、突如として無機質なアナウンスが脳内に流れた。予想通り、《能力:吸収融合》が関係しているのだろう。
吸収できるのは生物だけでなく、能力やスキルも対象だ。だったら、ゲームみたくスキルとスキルで融合できるという考えも間違っていなかった。
動きに少し余裕ができたからステータスを確認できるだろう。俺は攻撃を回避する為に部屋を駆け回りながら、ステータスを確認した。
「これは!」
ステータス画面にあったスキルに驚き足を止めてしまった。そこにミノタウロスのパンチが上半身を潰す勢いで飛んできた。
一秒差であっただろう。頭を下げるタイミングが遅ければ、スイカ割りよりも激しく赤色が飛び散っていた。
だが、ミノタウロスはパンチをしていなかった手で俺のことをガッチリと捕らえていた。手も足も出せない状態になってしまった。
「惜しい。貴様の素早い動きは俺をワクワクさせた。だが攻撃は一度もしていなかった。『天使の忌み子』とはこんなものだったのか」
「だったら、離してくれてもいいじゃないか」
「俺のルールだ。闘った者は基本的に殺すことにしている」
「さっき洞窟から出てきた冒険者は死んでいなかったぞ」
「アレは逃げられたんだ。眩しい光を使ってな」
ミノタウロスは地面に目線を向けている。おそらく俺を地面に叩きつけるのだろう。
地面に叩きつけられたら、スライムでも致命傷になりそうだ。って、俺、スライムだ!
94a21c9e No.1303
「別れだ、『天使の忌み子』」
ミノタウロスは俺を地面と衝突させるために、一度俺を高い位置に上げた。その瞬間、拘束を少し緩めた。
俺は待っていたと言わんばかりにスライムへ戻る。
地面に叩きつける時、自身の手を巻き込ませる奴はいない。そう、無駄な怪我を避けるには俺を離さないといけないのだ。
そして、体型が変幻自在のスライムなら、強く握られていない手から脱出できた。
脱出した後はタチハの身体に戻った。剣も甲冑もスライムの時に保存していたため、一応無事である。ただし、甲冑はミノタウロスの握力によってヒビが入ってしまった。
「!」
ミノタウロスは驚いている。何で驚いているかは心あたりが多くてわからないが。
そして、これはミノタウロスはスキを出した事と同意義だ。今なら、攻撃は確定で通る。
剣を握ってミノタウロスの胴体を狙う。ここに放つのはさっき自動で融合したスキルだ。
「剣術スキル。いや、《超剣術スキル》!!!」
俺は閃光の速さでミノタウロスの胴体へ突っ込んだ。その勢いで剣を横に振るう。
ミノタウロスは上半身と下半身で真っ二つとなっていった。
宙に舞ったミノタウロスの上半身は独り言を最後に呟いた。これが伝説の魔物か、と。
5994e002 No.1316
ミノタウロスに殺られた12名の冒険者達の剣術を学んだのが平均5年だったとする。
実際はもっと長い間だろうが。
ひとりひとりは5年でも俺が吸収し取り込む事で60年の剣術を学んだ期間に相当する。
足し算だけでなく統合し掛け合わせする事で掛け算にだって可能だ。
剣術のレベルだって同じく。
実際《能力:吸収融合》で進化し
『剣術スキルが七つ揃いました。同一スキルの融合を開始いたします』と発動したのだから。
ミノタウロスは戦闘開始から数分間で60年分の剣術のスキルを手に入れたに等しい俺との戦いだった。
もちろん俺だけの功績ではない。
このタイミングでなければ俺はミノタウロスに殺られた冒険者達のスキルや戦闘技術を手に入れられずに殺られていただろう。
殺られた冒険者達もただ屍をここに残すだけだっただろう。
ecbc03da No.1344
俺はさっそくミノタウロスの肉体を吸収した。これにより、ミノタウロスの身につけていた怪力の技術を手に入れることにも成功した。試しに壁を軽く殴ってみたら、大きなヒビが入った。本気で殴ったらこの洞窟が崩落しそうだ。無闇やたらに使うのはやめておこう。
他には、《カーストプリズン》と《隷属化》というスキルを覚えた。
《カーストプリズン》は対象者を亜空間に連れていき、死より辛い目に合わせるらしい。嬉しいことに、この能力は対象者への一定以上の憎しみを持たないと発動しない。ちなみに、この能力を一番に喜んだのはタチハの人格である。
《隷属化》は使用者と対象者の間に主従関係を結ぶスキルだ。契約の手順があるため、勝手に他人へ使用できない。ただ、タチハの復讐を遂行するのが先であるため、今は必要ないな。
最後に、ミノタウロスの記憶を深く覗いた。
どうやらミノタウロスは、自身の闘いを求め続けた結果、一族とは決別して二百年間ほどの武者修行の旅をしていたことが判明した。そして、旅の途中で俺と出会い死んだ。
ミノタウロスの所持していた二つのスキルは遺伝子的に覚えたものであった。ただし、彼は生涯で一度もスキルを使わなかった。努力して、怪力を磨いていったのだ。俺はこのミノタウロスの怪力を大事に使っていこう。
それと、『天使の忌み子』という言葉は、ミノタウロスが同族と暮らしていた頃に一度だけ聞いたものであり、俺が聞いた情報以外は一切知らなかったのだった。
ecbc03da No.1345
俺はこの洞窟を立ち去る前に、死んでいった冒険者の死体を外の地面に埋葬した。一人一人へ丁寧に、花などをお供えしていたため、朝日が登ってきてしまった。
これから俺は
#A) 急いで街へ戻る
#B) ゆっくり街へ戻る
#C) その他
ecbc03da No.1393
森でレベル上げをすること1週間が過ぎた。数値とかは出ないが、ゴブリンやオークといった魔物を倒して、それらを吸収融合することによって、俺は着実にレベルアップしていた。
隠しダンジョンを発見したのは、森に篭ってから八日目のことであった。
発見時の一時間前、俺はオークを15体相手にした。肉体的にはまだ戦えそうだが、大事をとって、一度休憩しようと思った。そこで俺はトレントが紛れている森の木々ではなく、崖に寄りかかった。
寄りかかった瞬間に、俺はズブズブと崖に吸い込まれていく。吸い込まれた結果、俺は地面に激突してしまった。
俺は慌てて飛び上がり、俺が入ってきた壁の側面に片手を突っ込んだ。突っ込んだ手は水中と同じ触感になり、視覚では手が壁に練り込んだように見える。
これも異世界魔法の一種で、壁と内部を偽装しているのだろう。
この隠された場所は縄文時代の竪穴住居よりも整っており、今まで吸収してきたどの生物の目でもわからないほど奥まで続いていた。
この先に進むか、盗賊を倒した後に装備を整えてから訪れるかの二択が浮上してきた時だった。
誰かがふよふよとこちらに近づいてきた。俺は警戒して剣を構える。
「おい、そんなに身構えないでくれよ嬢ちゃん。こちとら死んでから6年以上たった幽霊なんだぜ」
現れたのは、足がなく全体的に色が薄いオッサンだった。
ecbc03da No.1412
男の顔はザラザラとした髭に中年の老け皺をしているが、お腹周りや腕がしっかりと引き締まっている。前世でたとえるなら、スポーツが趣味のアラフォーサラリーマンという表現が一番似合う幽霊であった。
あと、目元とかはどこかで見たことあるような気がする。
「誰だ?」
俺は目の前にいる男の幽霊に何者であるのかを尋ねた。
「おお、そうだ。俺の名前はドラップ。熟練冒険者で、愛用武器は槍だ。ナイスガイである俺はスマイルを欠かさないようにしている。このいけてる俺は既婚者であり…」
ドラップは自身の素性をベラベラと長話しようとした。そのため、俺は目でこう訴えた。簡潔に要点をまとめて話せ。
ドラップは俺の顔を読み取ってくれたのか、咳払いをして自慢話をやめてくれた。
「お嬢ちゃんは冒険者だろう。実はお願いがあるんだ」
「内容は?」
「ああ、実はこの隠しダンジョンの最下層にある俺の荷物を拾ってきてくれ。俺の冒険者ライセンスカードや俺の名前が刻まれた槍といった俺の身分がわかりそうな物をだ」
なるほど、ドラップが死んでいる証拠を外に持ち出せてということか。誰も知らないダンジョンで死んだ場合、冒険者ギルドとかは一生行方不明扱いにしてそうだ。
けれど、最下層にドラップの荷物が置いたままであるということは、
「だが、簡単な仕事じゃない。俺は最下層にいたダンジョンのボスに殺されたんだ」
ドラップを殺した魔物は
#A)話ができるネクロマンサーガイコツ
#B)沢山の触手を持った植物系モンスター
#C)その他
5dfc60b4 No.1416
#C)その他
その最下層の強力なボスが、あの突然洞窟に現れたミノタウロスだったのだ!
6f934ae6 No.1417
俺はそのミノタウロスを殺したことをドラップに伝えた。
ドラップは俺の話を聞くと一瞬呆気ない顔をした。しかし、ドラップは
「なんだ、お嬢ちゃん激強じゃないか。最下層にはお宝が保管されている部屋もあるんだ。全部持っていっちまえ。それと….」
と笑顔でおしゃべりを再開した。その顔は爽やかで憎めないやつのする顔だ。
それと、謎であったミノタウロスが洞窟に現れる前にいた場所もわかった。あのミノタウロスのことだ。たぶん、強いものを求めて外に出たのだろう。
強敵を吸収することはできないだろうが、俺はドラップの望みを叶えてやろうと思い、隠しダンジョンの最下層へと潜っていった。
6f934ae6 No.1418
そんな軽い気持ちでダンジョンの最下層へと降りていってから、三日過ぎた。
道中はドラップの過去話をbgmにしながら、モンスターを狩っていったのだが、出てくる数が多い。
入り口で待機していたドラップ曰く、ドラップが死んでから俺がくるまでの数年以上は冒険者が来なかったらしい。
そのため、ただねずみ算のように増えていた蜘蛛の小型モンスターが俺に襲いかかってきた。少なくとも数億匹はいただろう。
残念ながら、俺はRPGでいう全体攻撃魔法的な能力を吸収融合していなくて、ひたすら剣を振り回して、地道に敵を倒すことしかできなかった。無論、死体は全部吸収した。
結果、蜘蛛が持っていた蜘蛛の巣の糸を作る能力ばかりがパワーアップしていた。ステータスの説明だと、普通の剣を振り下ろしただけでは切れないくらいに頑丈な糸を出せるらしい。
そして今、ちまちま蜘蛛と戦っていた俺は、やっとの思いで最下層に無事着いたのであった。
「こっちだ、スライムのお嬢ちゃん」
ドラップが道案内で先行をする。
ドラップは俺が彼の荷物を回収するところを見届けたら、成仏するらしいとのこと。他の人に漏れる可能性がないと判断した俺は、早々に自分の正体がスライムであることをバラした。まあ、吸収融合をダンジョン内のモンスター達に使いたかったっていう理由もあるが。
この話をドラップは俺がスライムであることに驚かなかった。
理由はドラップの奥さんが関係している。
ドラップの奥さんは人間に友好的なサキュバスであり、多くの魔物とも知り合いであったらしい。その中には人間の姿になれるスライムがいたとのことだ。
ドラップは冒険者である身であったが、奥さんに一目惚れした。そして、ドラップが何度も愛の告白をして、奥さんとゴールインしたらしい。
結婚した後も、ドラップは冒険をやめなかった。
ドラップは、奥さんとドラップとの間にできた子供達を村に残して、このダンジョンを訪れた。そして、ただいまを言えずにドラップはミノタウロスに殺された。けれど、悲しそうな素振りはしてなかった。ドラップ曰く、冒険者はいつ死んでもおかしくないとのことだ。
ドラップは自身の妻が住んでいる村の場所を教えてくれたが、ここからだとあまりにも遠い場所にあった。この村を尋ねるのは、盗賊団を倒してからにしよう。
「この扉だ」
ドラップは声をあげて、大扉を指さす。
将来の予定を立てながら歩いている内に、ミノタウロスがボスをしていた部屋に到着したようだ。
俺はゆっくりと扉を開いた。
ecbc03da No.1439
「いいのか?こんな高価な武器を遺族に返さなくて?」
「いいよいいよ。そいつは、今すぐにでも暴れたいって喋るからな。使えこなせるかどうかわからない家族より、今一番使えこなせそうな兄ちゃんが使った方がいいんだよ」
「そういうものなのか….」
俺は手に持っている槍を改めて感じる。ずっしりとした質量に、鋭い金属部分が輝く先端、何より全然劣化を感じない柄。働いていた酒場に訪れていたどの冒険者も、こんなに最高な武器は誰も持っていなかったな。
「あ、そうだ!王座の真下に隠し階段がある。そこがお宝の保管庫だ。あそこに金銀財宝や珍しい魔道具、あと俺の荷物がある。俺はミノタウロスがわざわざ仕舞ってくれたところ見たんだ。死んだ後の話だけど」
俺は巨大な王座を怪力で引っぺがした。
ドラップの証言通りに、別室へと続く扉があった。
ecbc03da No.1450
金銀財宝が眠る中で、高身長男性が一人分入れそうなサイズの宝箱を見つけた。
宝箱の表面には【強敵の遺産】と刻み込まれている。
「その宝箱だ。ミノタウロスはその宝箱に俺の荷物を入れたんだ」
俺はドラップが指摘した宝箱を開ける。中身は、様々な物が乱雑に入っていた。謎の鉱石や用途不明の道具、男性物の靴下等々が入っている。
「なんか色々入っているな」
試しに俺は、一番上にあった鉱石を手に取る。
「それは、転移結晶やないか」
「転移ってことは、緊急脱出用の魔法陣と同じ効果を持っているってことか?」
「いや、そんな便利な物ではない。転移先がランダムなんや。しかも、消耗品。だからそれを使ってしまうと、最悪な場所にワープして、帰って来れなくなる場合がある。具体的には雪山の頂上とか魔物の住処とか。まあ、希少なものだから貴族のアンティークぐらいの価値はある」
これ、すごい使いにくいなぁ。ランダムで場所移動はリスクが大きすぎるし、わざわざ使いたいともならない。けど、もしかしたらいつか使うかもしれないし、ここを訪れた記念品として持ち帰ってもいいだろう。
というわけで、この転移結晶も能力で収納しておく。
今度は、転移結晶が置いてあった近くの手提げカバンを手に取る。
「あ、それは俺の鞄だ」
ドラップの遺品が無事に見つかったのだった。
8328b051 No.1456
「そうなのか」
俺はドラップの鞄を開けずに収納しようとしたが、
「いや、あ、開けてくれ」
ドラップは開封を希望してきた。
「誰にも渡したくない物が入っているのか?」
ドラップは恥ずかしがりながら、こくんと頷いた。
「実は、俺の息子と娘に描いてもらった俺の似顔絵が入っているんだよ。しかも、二人のサイン入りの。後は、家族四人の肖像画のロケットペンダントとか」
「なんで似顔絵を持ってきたんだよ」
「しょうがないだろ。厳重に保管した結果、緊急脱出用の魔法陣と間違えて持ってきたんだ。それに、ギルドなんかに持っていったら、あいつら絶対ゴミとして扱うもん。芸術がわからない魔猿未満の脳みそに馬鹿にされたくないの。俺にとっては己の命よりも尊い宝物だもん」
「なおさらダンジョンに持ってくるな」
ドラップが想像以上に親バカ兼バカだった。
「で、似顔絵はどうしたんだ」
「貴方様はスライムでしかもアイテムを綺麗な状態で収納できるんですよね。でしたら、似顔絵は保管してもらって、後世の歴史的価値がある…」
「遺族に渡しておくな」
「おい!」
俺は、ごまをするドラップを無視して鞄を開けた。中には二枚の洋紙とロケットペンダント、ギルドカードとかが入っていた。
俺はそこから、似顔絵の描かれた洋紙の片方を手に取る。すると。洋紙を留めてあった紐がブチっと寿命のごとく切れてしまい、俺はドラップの自慢していた似顔絵とサインを目にしてしまった。そして、俺は驚いた。
別にドラップの似顔絵は子供が描いたものだなと思うだけである。俺はサインの名前を見て驚いたんだ。
この洋紙には【ティーニャ】とサインされていたのだ。
4097dff8 No.1458
「ティーニャってもしかしてドラップは城塞都市『ファースター』に住んでいたのか?」
「あぁ懐かしの我が故郷『ファースター』の名を聞くとは!?
遥か彼方の街の名前なのに!ひょっとして兄ちゃんは『ファースター』に行った事が?」
「遥か彼方って冒険者の脚なら普通に3日の行程だろ?
違うのか?」
「3日?少なくとも1年は掛かるハズ…」
「「あっ!」」
突然街から僅か3日の距離のただの洞窟に現れたダンジョンボスのミノタウロス!
普通の森の中の隠しダンジョン!!
「まさかこの隠しダンジョンごと遠くから転移してきたか?」
「もしくは時空の歪みとかで全然別のところから此処に移転してきたとか」
「時空とか知らない言葉だが兄ちゃんの世界ではあるのだな?」
357a9042 No.1459
と話し掛けてきたドラップはハッと気付いたようだ!
「息子を!ティーニャをぞんじているので!?」
93b550da No.1465
「ああ、あいつは『ファスター』で門番をやっているぞ」
「ティーニャは俺の息子だからなあ。俺に似て誰にでも親切で、知的で最強の門番になっているに決まっているさ」
確かにティーニャは誰にでも優しいイメージがあるな。でも、知的の部分は母親側の遺伝だと思う。
あ、ドラップがティーニャの息子なら、ティーニャの母親はサキュバスなのか?ただ、ドラップの場合は話を盛っている可能性があるからなあ。
しかし、母親が魔族であるなら、納得できる部分もある。ティーニャは、フターバの姿であった俺に対して、誘拐事件を解決できる可能性があるといった。普通の人間なら、冒険者でも騎士でもない、そこら辺にいる町娘が事件を解決できると考えない。おそらく、ティーニャは俺から出ていた魔物特有のオーラを感じ取ったのだろう。そうだとしたら、ティーニャは魔族のハーフということ、俺が魔物であるのがバレていることとなる。
「そうだ。息子のティーニャを知っているんなら、娘のユウニャ、妻のジュンも知っているのか」
「すまん。ティーニャしか会ったことがない」
「そうなのか」
興奮気味のドラップを見ていたらと、一つのアイデアが思いついた。
「なあ、俺と一緒に外に出ないか。もしもドラップが地縛霊でここから出れないなら、俺の《隷属化》を使えば外に出ることも可能だから」
そう、残した家族のことが心配なら、外でこっそりと見守ればいい。幽霊の活動できる範囲や時間は詳しく知らないが、少なくとも3日の移動なら問題ないだろう。
また、《隷属化》で結んだ主従関係によって、主人の能力等の一部を従者が恩恵として手に入れることができるらしい。それを使えば、幽霊でも日光対策ができるだろう。
「スライムの兄ちゃん」
俺の提案を聞いて、ドラップがなんだか感動している雰囲気を醸し出しながら、
「ごめん、やっぱ無理」
それらをかき消す勢いで断った。
93b550da No.1466
「なんでだよ!」
あまりもありえない返答に俺は驚きながら質問する。
「だってさ、街に戻ったとします。娘を見つけたとします。その時、」
大きく息を吸い込むドラップ。
「娘に彼氏や旦那がいたら、パパ耐えられない!!」
「知らねえよ!」
別にいてもいいと思うが。
「でもさ、パートナーがいない場合もあるだろ」
「いやいや、うちのユウニャは世界一可愛いんだ。母親のジュンに似ているから、大きくなったら絶対美人になる。近所では老若男女誰からも愛されている。そんな子に恋人がいないなら、人類はすでに滅んでいる」
「人類を勝手に滅ぼすな」
「俺の生前でユウニャはな、パパ大好きを一秒単位で言ってくれるぐらいのパパっ子なんだ。ユウニャが俺の死んだ後に恋人がいたら….
うわーん!」
ドラップの浮遊している体が泣き崩れた。幽霊なのに涙と鼻水をダラダラと流しているのは、シュールな絵面である。
この時、俺とフターバの第六感が面倒なことを頼まれる前にここから離れろと告げてきた。
熊から逃げるように俺は一歩一歩階段の方へ後退りをおこなった。
しかし、ドラップは泣きを急に止めて、こちらを真顔で見てきた。
「なあああ、兄ちゃん。今から、依頼を頼めるか?」
「な、内容は」
急接近して顔を近づけてきたドラップ。その勢いにより、謎の冷や汗をかく俺。そして面倒くさいと思っている心の三人格(清彦、タチハ、フターバ)。
「俺は娘を信頼できる者に預けたと常日頃から思っている。だから、もしも、ユウニャにパートナーがいたら、スライムの兄ちゃんがユウニャを寝取ってやってくれ」
「絶対に嫌だよ。大体、父親なら娘の幸せを心から祝えよ」
娘の幸せと聞いた瞬間、再び崩れ落ちるドラップ。そして、ゆっくりと無理な体勢で体を浮遊させた。
「そうだよの、そうだよね、そうだよぬ、そうだよに、そうだよな。ムスメノシアワセガタイセツダヨナ。そうだ!俺の代わりにユウニャに悪い虫が引っ付いていないか見てきたくれ。いたらそいつらを処分してくれ。そして、俺に報告してくれ!」
「自分で行けよ」
「自慢じゃないが、ユウニャと男が一緒にいるところを見たら、その場にいる人間を手当たり次第呪い殺すようになってしまうんだ」
「自重しろよ。色々含めて」
93b550da No.1467
結局俺は、我慢ができないドラップの依頼をもう一つ引き受けることとなった。まあ、ドラップの娘さんと奥さんに挨拶するのは、盗賊達に復讐してからの方がいいな。
やはり、第三者を巻き込まない為にも、俺の冒険の為にも、後のスローライフの為にも、盗賊問題はさっさと片付けた方がいいな。
そう考えた俺は、予定を前倒しして街に戻ることにした。
ecbc03da No.1544
俺は街の前の城壁の近くまで戻ってきた後、俺は木の上で小鳥となった。
ミノタウロスから手に入れた《カーストプリズン》とドラップの槍を使えば、攻略は容易であろう。
俺はこれから街に戻り、盗賊達の根城である『黄金の風見鶏』へ侵入する。
さて、どうやって侵入しようか。
#a) タチハの姿になって、ワザと盗賊に襲われる。その後、襲ってきた盗賊を皮にして、盗賊の姿で潜入。
#b) フターバの姿でサファリに接触。接触後に、サファリを皮にして、サファリの姿で潜入。
#c)ミノタウロスの姿で正面突破
#d)その他
2ff1949a No.1545
#b) フターバの姿でサファリに接触。接触後に、サファリを皮にして、サファリの姿で潜入。
e57398e0 No.1546
「ドラップのベテラン冒険者としての知見と見識から推測して聞かせてくれ」
俺は知る限りの情報を全てドラップに伝えた。
ドラップは少し考えてから
「その美人エルフのサファリって奴は間違いなくキヨヒコの身体になったタチハの村を襲った盗賊団の首領だな。
俺の冒険者としての直感がそう告げてる。
より正確にはサファリの身体を乗っ取った奴がだな。
もう伝説レベルとか神話級の話だがそういうマジックアイテムがあるって話だ。
今まで住んでいた家を引き払い、今はどこに住んでいるか誰も知らない。
温和で人との交流が好きだったのにいつの間にか性格が変わっていた。
その病気の恋人が盗賊団の首領だったのかもな。
いや、恋人が先に首領に乗っ取られていたかもな。
サファリの身体を得る為に。
だから首領から稀に首領の支配から解放された本物のサファリが街に現れても助けを求められなかったのは、その病気の恋人が人質になっているからだろうな。
盗賊団の首領もサファリの身体でなく、自分本来の身体でないとダメな場合もあるだろうからな」
e57398e0 No.1547
「サファリの身体を乗っ取ったのは
エルフ族は総じて魔力の総量が多いとか魔力が強い等、人間より魔力が凄いんだ。
サファリさんの身体を乗っ取り、普段はサファリさんになりすまして世間の目から隠れ、美しいエルフの女の身体で娼婦として快楽を貪る。
女性のサファリさんが男の身体だったのも必要ならサファリの…エルフの身体で男の身体になりその魔力を使って盗賊団の首領として暗躍しているんだろ。
誘拐や行方不明だった人間がひょっこり全員帰ってきたり見つかったのも怪しいな。
男もいるし一家全員もあるそうだがほとんどが美人の女性だってことなら予想もつく」
e57398e0 No.1548
「美人や美少女なら油断もするし警戒されにくい。
姿形は行方不明や誘拐された女性でも中身は盗賊団だな。
その美人や美少女なんだが、たぶん職業とか街を頻繁に出入りする人間だろうな。
門番や関所の兵士が盗賊団を見逃すまいと警戒し目を光らせていても全くの別人として堂々と出入り可能ってワケだ。
可能性としてマジックファスナーだな。
人間を化けの皮の着ぐるみにするモノだ。
もちろんそう簡単に手に入るモノじゃないんだが。
王族や貴族、政治家や上級商人とかは看破するアイテムや妨害アイテムを持っているんだろがな。
街の門番や街道の関所にはとても配備できるモノじゃない。
化けた人間になりすまして何処へでも出入りし放題だっただろうさ」
俺の推察と同じだった。
ecbc03da No.1559
俺は、当たり前のように隣で喋っている幽霊に疑問をぶつけることにした。
「なんで着いてきているんだよ、ドラップ。ユウニャに男がいたら暴走すると言っていただろ。てか、一度街に帰ってくることを断っただろ」
俺の質問に対して、ドラップは両手をモジモジさせる。
「久しぶりの会話相手が居なくなるのが、寂しくて」
「幼稚園生かよ!」
『おい、誰かいるのか?』
俺のツッコミのボリュームが大きかったため、警備兵が警戒の言葉をこちらの方に放った。
「とりあえず、今から俺は入門の検問を受けてくる」
「俺は、門の上空を通って行くわ」
「あれ、お前は幽霊なんだろ。たぶん他人からは認識できないと思うから、一緒に門をくぐって行かないのか?」
「ああ、確かに俺は幽霊であり、ダンジョンに住んでいたミノタウロスには一度も認知されなかった。けど、」
ドラップは真剣な眼差しで言葉を発する。
「俺の息子、天才なんだ」
「ああ、そうなのか。じゃ行くぞ」
俺はスタコラサッサと門の方へ向かっていった。
後ろから、嘘じゃない本当なんだ、と身体に触れられない馬鹿が叫んでいるのを無視して。
少なくとも、天才であることと幽霊が見えることは、まったく別の才能であろう。
f45166e2 No.1561
幸か不幸か今日の門番の警備兵はティーニャではなかった。
「フターバさんだったのか。お帰りなさい。久しぶりですね」
門番達はフターバが働くギルド直営の酒場の常連さんだ。
「ティーニャが悔しがるな。一番最初に挨拶できなかったって」
「フターバさんはティーニャのお気に入りですからなぁ〜」
なんか盛り上がる門番の警備兵達。
無事門を通過する。
なおドラップは門や城壁に施されたゴースト系の対抗策の紋章に阻まれて入れなかった(苦笑)
俺の《隷属化》を使えば一緒に入れたみたいだがw
まぁ数日したら迎えに行ってやるか。
ecbc03da No.1572
俺はサファリを見つけるために街の中を歩き回る。
街中の人通りや活気は、俺がいた時よりも静かであった。別に人が誰も出歩いていないわけではない。武装した冒険者達の姿がまったく見当たらない。
不思議に感じていた俺は、勤め先の花屋の店主に話を聞いてみることにした。
「店長さん、お久しぶりです」
「お、フターバちゃん。自分探しの旅はもういいのかね」
「はい。それで、実はですね…」
俺はフターバの記憶を取り戻し、フターバが薬師であったこと。友人(設定)タチハの住む村を訪れたら、盗賊によって燃やされていたこと。それと今後は薬師としての腕を上げるために、そのうち街を離れることを話した。
俺の話を聞き終えた花屋の店主は涙を流してくれた。
「ヴォーオーン。ぞいづはヅラがっだな。ごんどゔぢの花をわだすわ」
「ありがとうございます。あ、それと今日は、街の人が少ないように感じます。何かあったのでしょうか」
「冒険者達と勇者一行が、洞窟に出たミノダヴロスとかいうモンスターを討伐しに行ったっで。昨日に全員がまぢを出だんだ」
なるほど、だからいつもよりも道を歩いている人が少ないのか。
d3c538d4 No.1580
だとすると復讐相手のあの盗賊団が動き出すかもしれない。
目の上のたんこぶの勇者パーティーや冒険者達がいないのたから。
e30a1a88 No.1587
「そうだ。サファリさんにも別れの挨拶を言っておいてくれ。サファリさんはお前さんが居なくなってから毎日、いつ戻ってくるのかを尋ねて来てたんだ」
なるほど。盗賊の首領はフターバの身体も狙っていたのか。
もしかしたら、盗賊の首領は常に霊体なのかもしれない。サファリを自由に動き回らせているが、サファリが第三者に秘密を話さないように監視しているだろう。そうすれば、サファリが口を漏らしても、それを聞いていた人間に憑依することができる。
憑依をするために盗賊の首領の魂は無防備になるだろう。そこに《カーストプリズン》を打ち込む。
「タイミングが大事だな」
「何か言ったか、フターバ」
「いえ、なんでもありません」
「そうか。なら、サファリさんに会いに行った方がいいな」
「でも、サファリさんの家は誰も知らないですよ」
「サファリさんならさっき、いつもの花を買ってたぞ。今から走って探せば見つかると思う」
俺はその情報を聞いた瞬間、急いでサファリを探しに出た。
そして、サファリさんと男性らしき幽霊をすぐに見つけた。
1358c723 No.1598
周りには俺以外いない。
あの幽霊が盗賊団の首領なら今すぐ《カーストプリズン》を打ち込んでやってもよいが、
ならば何故サファリから離れているのか等の状況がわからなくては後に何か問題になるかもしれない。
幸い二人には気付かれていなかったので俺はフターバの身体からスライムの姿になり隠蔽と気配断ちのスキルを使い地面に広がり地面に擬態する。
「お願いします。もう私の姿で犯罪をやめてください。街の皆さんを巻き込まないでください」
美貌を泣きそうな表情で曇らせ懇願しているサファリさん。
「フヘヘ、ダメダメ♪お前の姿だと皆油断しコロコロ引っ掛るんだよ♪
また戦闘力も魔力の宝庫のお前の身体はヒジョ〜に役に立つw
サファリ、お前には俺の身体としてまだまだ付き合って貰うぜ♪」
ecbc03da No.1612
地獄のような台詞を聞いたサファリは今にも泣きそうな顔になる。
「けど、後十時間は憑依をしないぜ。今憑依をしたら、霊王になる儀式がパーになっちまう」
盗賊の首領はゲームの勝ちを確信したようにニヤニヤと笑った。
こいつが漏らした霊王とはなんだ。
するとサファリは険しい怒りの表情へと変えた。
「それは人が魔物になる禁術です。あなたはそうまでして不老を望むのですか」
「そりゃそうさ。長命なエルフには、短命な人間様が恐れるものを一生理解できないだろうな。それに」
霊は話している中、思い出したようにイライラし始める。
「この街はまだ1割しか支配できていないんだよ。おそらく、ティーニャとかいうクソったれ警備兵が邪魔しているんだ。あいつらのパトロールとかいう行為は、俺たちの活動を阻止しているかの如く、いつも神出鬼没で監視の目を光らせていやがる。あいつのせいで予定は狂いまくりだ。クソが!」
ecbc03da No.1615
「あなたは魔物になってティーニャさんを襲う予定ですね」
「その通りだ。けど、証拠はできるだけ残すつもりはないぜ。街の人間に口を揃えさせて『魔物は見ていないし、ティーニャが何処に消えたのか知らない』と言わせるつもりだ」
「あなたが魔物になれば勇者様がきっと退治してくれるはずよ」
「無理だな。俺らが潜伏している場所を見つけることができなかった節穴勇者には。あいつらは脱獄した魔術師を必死こいて探しているのに、尻尾すら掴めていねえぞ。にまあ、精々特等席で俺が最上位の魔物になること眺めさせてやるよ」
一人のエルフと一体の幽霊は言い争い(サファリが押し負けている状態)しながら裏路地へと入っていった。
俺は彼女らの話を一度成立することにした。
今の話の流れだと、あの幽霊は霊王という魔物になる予定だという。そして、霊王の状態になって街を本格的に支配するとのことだ。あの幽霊は盗賊の首領であることは間違えないだろう。
しかし、俺は今がチャンスだと思った。
奴は儀式のために後十時間も霊体で過ごす予定なら、《カーストプリズン》を誰にも気づかれずに放つことができる。
二人の後を尾行するため、俺も裏路地へと入っていった。
d6da1558 No.1621
ちなみに《カーストプリズン》をこのゴースト状態の盗賊団の首領に使うと…
ecbc03da No.1637
盗賊団の首領の魂と肉体の繋がりが切れる。
なぜなら、《カーストプリズン》は対象を復讐の舞台である異界へと飛ばす能力であるからだ。
異界へ飛ばす時、対象物の持ち込みに制限がかかる。武器はもちろんのこと、洋服すら持ち込ませない。そのため、魂だけを対象としたら肉体が持ち込まれず、魂だけ異界へと転送される。
魂と肉体の繋がりが切れた場合、それは魂が永久に持ち主の肉体へと戻れなくなる。魂は浮遊霊となり、肉体は死体となる。
つまり、ゴースト状態の盗賊団の首領に《カーストプリズン》を使うことは、人を殺すことと同じなのだ。
けれど、躊躇いを持ってはダメだ。
盗賊団の首領を殺すことを躊躇したら、こいつは魔物になって街を襲う。被害者を大勢出すことにもなるし、タチハの復讐が実現不可能となってしまう。
そもそも、《カーストプリズン》がなかったら、身体を痛めつけたうえで殺すという復讐方法を選んでいたかもしれないだろ。
俺はドキドキと心拍する倫理観を抑えつけながら深呼吸をした。
bf8f780c No.1644
タチハの惨劇の記憶が蘇る。
首領が村の親友を…自分を犯し…更にその後に部下たちに褒美として犯し尽くせwwwと笑いながら言っていた事を。
即座にタチハの姿になり《カーストプリズン》を撃ち放しそうになるところだったが首領のサファリに向かって
「俺に攻撃したっていいんだぜぇ~♪お前の恋人が死んでも良いのならなぁ~♪」
のセリフに何とか抑え込む。
そうだ。
サファリさんは恋人が人質に取られているからいいように身体を乗っ取られ使われているのだ!
ゴーストのドラップと一緒にいた事やダンジョンボスのミノタウロスや数億匹の蜘蛛や色々な魔物を取り込んできた今の俺は盗賊団の首領の幽体状態の痕跡を追跡出来る。
今すぐにでも《カーストプリズン》をぶっ放したいのを何とか堪え、俺はサファリさんと首領ゴーストの歩いてきた痕跡を捉え向かった。
035b0ae2 No.1652
サファリ達の後を気づかれないように追って行く。
彼らは『黄金の風見鶏』とは反対の方角へと進んでいった。この先は確か行き止まりであるはずだ。
突然、「もう、やめてください」というサファリの嘆き声が曲がり角の方から響いた。
俺は何があったのかとあいつらのやりとりを覗く。
そこには、
#Aサファリの恋人の皮を着た盗賊の下っ端が、下品に胸を揉んでいた。
#Bサファリの恋人が盗賊達に強姦されていた。
#Cその他
2a6f491c No.1723
#Cその他
盗賊団のNo.2 がサファリを皮にしてまさに今着ようとしていた!
「ボス、ありがとうございます♪ずっとサファリになってみたいと思ってたんスよ!」
「あぁ、サファリは俺専用の身体だったが知っての通り、俺はしばらくサファリに乗り移れねぇ。
コイツの連れ合いを人質にしてはいるが、やはり完全な保証にはならないからなぁ~。
その点、お前がサファリになれば安心だ。任せたぜ」
ecbc03da No.1755
「ボス、今日の接客業は任せてください。客の財布をすっからかんにしてやりますよ」
「そいつは頼もしいぜ。じゃ、俺は今からエロ魔術師と儀式についての段取り確認をしているから、店のことは任せたぜ」
「了解しました。ボス」
盗賊の首領は幽体の体で、西の方へと去っていった。
残されたNo.2の男はいそいそとサファリの皮へ着替えようと動いていた。
これはチャンスだ。No.2の男は鼻歌を口ずさむくらいに油断している。そのため、俺が隠れていることに気づいていない。
また、今この場にいるのはサファリの皮を手にしているNo.2と潜んでいる俺だけである。つまり、No.2を襲った後、サファリの皮を着たNo.2として振る舞うことができる。そうなれば、『黄金の風見鶏』内を堂々と探索することができる。
「いやー、ボスの後に続けば将来安泰だわw」
クズの発言をしているNo.2に対して、俺は唱える。
「《カーストプリズン》」
bf1ea8aa No.1757
油断していたところに俺の《カーストプリズン》の直撃を受けた盗賊団No.2は反応どころか
悲鳴をあげる間もなく一瞬で異界に裸一貫で放り込まれ消え去った。
後にはNo.2が着ていた服や装備が主を失い地面に落ちる。
掴まれていたペラペラの皮状態のサファリさんもフワリと地面へ。
「今のは《カーストプリズン》!? あなたが助けてくれたのね」
さすがハイエルフ。
今のを《カーストプリズン》と一瞬で気付き、俺の気配や悪意が無いのを察知して話し掛けてきた。
俺は地面に擬態していたスライム状態からフターバの姿に変身する。
まぁサファリさんはおそらく最初に会った時から俺が人間の女性であるフターバに擬態した知能のあるスライムだと気付いているだろうが。
ecbc03da No.1810
「やはり、フターバさんだったのですね。初めて会ったときから、魔物特有のオーラを垂れ流していましたから」
「バレていたんですね。俺がスライムだってことが」
「種族まではわからなかったわ。それと、助けてくださりありがとうございます」
「俺がこの後何をするかわかりますか」
俺は感謝してくれるサファリさんに対して、遠回しに確認をした。
救いを求めるサファリさんを見て、俺がサファリの皮を利用したと率直には言えなかったのだ。
質問をしてから少し間ができた頃、サファリは口を開いた。
「私は本当は男なの。十年程前に盗賊団の仲間である魔術士によって女の身体にされたわ。そして、その日から性奴隷のように扱われたの。
女言葉を強要され、あいつの気に食わないことがあれば、教育と称した強姦が待っていたの。一日一日がエルフの100年よりも長く感じたわ。こんな苦痛が永久に続くと考えたら逃げ出したかった。
けれども、できなかった。なぜなら、恋人のレーナが人質として取られていたの。しかも、勝手に逃げ出さないよう皮にした状態でね」
サファリは語る。
「あいつを呪い初めてから一年以上過ぎたころだった。私は盗賊の首領のスペアボディとして使われ始めたの。
知らない自分を見せられるのはとても苦渋だった。無垢な人を殺して悦を感じている私。盗んだ財宝を眺めて優を感じる私。卑猥な顔でメスの快楽を感じている私。どれもこれも最悪しか浮かばなかったわ」