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/tachiha/ - たちは板κ

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コンクリートのような冷たい床の感覚で目を覚ます。
ここはどこなのだろうか。全身が水色の粘液のようなもので覆われているようで、視界すらそれに遮られるせいで周囲の様子がうまく確認できない。
確か俺はいつものように会社に行き、その日も夜遅くまで残業していたはずだ。
何とか明日までに必要な資料を作り終えて、終電を逃すまいと疲れでふらつく身体に鞭を打ちながら走って、ホームまでの下り階段でうっかり足を滑らせて――

(そうか……俺、死んだのか。それで、確かその後は……)

朧気だった意識が段々とはっきりしていくにつれて、俺は自分がどうなってしまったのかを少しずつ思い出していた。
死んだと思った次の瞬間には真っ白で何も無い空間に立ち尽くしていて、そこで俺は女神を名乗る胡散臭い美女に出会ったのだ。
「異世界転生って言えば分かりますよね?」なんて説明責任を放棄したような台詞を吐いた彼女はおもむろにカードの束を取り出すと、そこから適当に引き抜いた一枚を俺に渡してきた。
そこには≪転生先:スライム 能力:吸収融合≫とだけ書かれていて、説明を求める間もなく俺は粘液の塊へと姿を変えられるとこの『異世界』に放り込まれたのだ。

(吸収融合ってことは……多分、この身体はあの女の子の物なんだろうな。まさか女になっちまうとは……)

ふと視線を下に降ろせば、そこにはどろどろの粘液に覆われた巨大な乳房が。どうやら少しずつ吸収した相手の姿に近づいてきているようで、半透明の水色だった肌は少しずつ人間のそれへと変わりつつある。

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恐らく、スライムの身体に脳にあたる部位が存在しなかったからなのだろう。
異世界に生まれ直した俺は前世の記憶も人としての理性も忘れ、ただ本能のままに生きる矮小な魔物に成り果てていた。
地面をずりずりと這いずり回りながら栄養になりそうな木の実や小動物の死骸を見つけては取り込み、人間や他の魔物から身を隠しては生き延びるだけの日々。
偶然見つけたこの廃墟に入ったのもその本能によるものだ。粘液で構成されているせいか、この身体は暗くてじめっとした場所を好むらしい。
そこで倒れていた狐耳の少女を発見し、初めて目の当たりにした栄養豊富そうな人間の新鮮な死体を前に興奮しつつその全身を取り込んでいって――
あくまでも推測だが、その結果人間の脳を手に入れたおかげでこうしてかつての自我を取り戻すに至ったのだろう。

「ごぼっ!?けほっ、けほっ……。あー、あーあー、コホン」

喉奥から込み上げた粘液の塊が吐き出されるのと同時に首の中で空気の通り道が形成され、試しに声を出そうとしてみると鈴のような声が発せられる。
どうやら体内までもが完全に作り変わったようで、俺はさっきまで無かったはずの心臓が胸のあたりで鼓動を開始したのを感じていた。
生命を動かす心臓がある。声を発する喉も、手も、足も、頭も。スライムの時には無かった部位の存在を確かに感じられて、久しぶりに人間に戻れたことへの感動が込み上げて少しだけ涙腺が緩む。
と、同時に。元の身体には無かった部位への違和感も俺は感じていた。
元の世界の人間にはあり得なかった、動物のような耳とふさふさの尻尾がある感覚。そして男の自分には無縁だったさらさらとした長い髪に、さっきからずしりとした重さを伝えてくるこの巨乳。
股間にぶら下がっていた相棒はすっかりと消え失せているが、そこに存在していたはずの玉に似た何かが下腹部の中にあるような奇妙な感覚もする。

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新鮮な死体で脳の欠損もなかったため、この少女の記憶も得ることができた。
盗賊から誘拐され、身ぐるみをはがされ、そして犯されて、死んでしまったようだ。
そして、その後この洋館に捨てられたのだろう。
この取り込んだ体の記憶が知識として、見ることはできるのだが、もともと街から外れた農村で育ったこの少女の知識はあまり多くなかった。
そんなことを考えながら、記憶を探っているとていると『スキル』と言う単語に興味をひいた。
異世界転生と言えば、これだ。

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『スキル』とは同じものが二つとない特殊能力のようで、俺が女神によって与えられた『吸収融合』もそれに該当するのだろう。
どうやらこの世界の人間でも全員がスキルを持っているわけではないらしいが、幸運なことに俺が吸収した狐耳の少女――タチハにはおあつらえ向きなスキルが備わっているようだった。
それは『食べた物の情報が分かる』というもの。
生前のタチハは料理に入っている野菜が誰の畑で採れたものだとか、隠し味に何を入れたかなんてことを当てては話のタネにしたりといった微笑ましい使い方をしていたようだ。

「ははっ、すげえ……俺にとってはチートスキルでしかないな」

そう、人間が口にするものと言えば農産物や家畜の肉なんかが主だろうが、今の俺は人間の死体すら取り込んで栄養にできるスライムなのだ。
試しにスキルを使ってタチハに関する情報を知ろうとすれば、記憶には無かった彼女の情報が欲しいままに浮かび上がってくる。
事細かな身長体重、体脂肪率、身体能力や病気の有無。スリーサイズや性感帯の場所なんてものまで知れたのは、恐らく使っているのがそういった情報に興味を持つ俺だからなのだろう。
情報は身体にまつわるものだけにとどまらず、簡単な生い立ちや住処、スキルまで分かるようだ。
これさえあれば今後吸収する死体の状態がどれだけ悪かろうと、最低限の情報は容易く得ることができるだろう。

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「とは言ってもなぁ。いきなり異世界で生きていけって言われたって、何をすればいいのか……」

文字通り死ぬまで働かされた社畜人生から解放されたのは心底嬉しいが、同時にそれに対する不安もあった。
上司に与えられた目的をただただこなすだけの日々、それに俺は多少の充足感を感じていたのだ。
それならタチハが住む農村に戻って気ままなスローライフでも送ってみるかとも思ったのだが、記憶を掘り返してみれば彼女が攫われた時には略奪やら放火やらで酷い有様になっていたようで――

「そうだ、あの盗賊共……」

ふと、借り物の心臓がちりりと焼け付くように熱くなり、今まで味わったことがないような激情が込み上げてくる。
きっとこれはタチハの感情なのだろう。慎ましく平和に暮らしていただけなのに突然襲われ、目の前で大切な家族を殺され、散々慰み物にされた後でゴミのように捨てられた。
もはや俺にとってタチハは他人ではない。記憶も身体も同じ物を持った相手、そして何より俺をスライムから人間の姿に戻してくれた恩人とも言える存在なのだ。
これから先、何の目的もやりたいことも特に無いのだから、せめて彼女への餞に復讐を果たしてやるのも良いかもしれない。
タチハの死体には盗賊によるものであろう数人の精液が残っていたため、それを死体ごと吸収した俺はスキルによって奴らのアジトや行動範囲なんかを知ることができていた。
とはいえ、流石にただの村娘だったタチハの身体のまま無策で挑んでは二の舞になってしまうだけなので、ある程度の準備は必要だろう。
……まずはこの目のやりどころに困る裸を隠すための衣服を探したりだとか。

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全裸のまま洋館内を探したが、着れるような服はなかった。
あったのは、腐乱した死体と腐りかけの死体。
そして、それらが着ている傷んだ服。
いや、服とは言えない。
ただ血痕と暴力で破れている傷んだ生地と言ったほうがいい。

どうしよか悩んだが、あることを思い出した。
《能力:吸収融合≫でそれらを吸収して、ひとつの服にすればいいんだ。
それから、体の一部をスライス状にして洋館内の死体から、その服等を吸収して回った。

全部の死体を吸収したら、とりあえずは外に出ても問題ないぐらいの服を作り出すことができた。
それに、死体からでもスキルをえることができたみたいだ。
だから、タチハの『食べた物の情報が分かる』で解析をしてみた。



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