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コンクリートのような冷たい床の感覚で目を覚ます。
ここはどこなのだろうか。全身が水色の粘液のようなもので覆われているようで、視界すらそれに遮られるせいで周囲の様子がうまく確認できない。
確か俺はいつものように会社に行き、その日も夜遅くまで残業していたはずだ。
何とか明日までに必要な資料を作り終えて、終電を逃すまいと疲れでふらつく身体に鞭を打ちながら走って、ホームまでの下り階段でうっかり足を滑らせて――
(そうか……俺、死んだのか。それで、確かその後は……)
朧気だった意識が段々とはっきりしていくにつれて、俺は自分がどうなってしまったのかを少しずつ思い出していた。
死んだと思った次の瞬間には真っ白で何も無い空間に立ち尽くしていて、そこで俺は女神を名乗る胡散臭い美女に出会ったのだ。
「異世界転生って言えば分かりますよね?」なんて説明責任を放棄したような台詞を吐いた彼女はおもむろにカードの束を取り出すと、そこから適当に引き抜いた一枚を俺に渡してきた。
そこには≪転生先:スライム 能力:吸収融合≫とだけ書かれていて、説明を求める間もなく俺は粘液の塊へと姿を変えられるとこの『異世界』に放り込まれたのだ。
(吸収融合ってことは……多分、この身体はあの女の子の物なんだろうな。まさか女になっちまうとは……)
ふと視線を下に降ろせば、そこにはどろどろの粘液に覆われた巨大な乳房が。どうやら少しずつ吸収した相手の姿に近づいてきているようで、半透明の水色だった肌は少しずつ人間のそれへと変わりつつある。
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恐らく、スライムの身体に脳にあたる部位が存在しなかったからなのだろう。
異世界に生まれ直した俺は前世の記憶も人としての理性も忘れ、ただ本能のままに生きる矮小な魔物に成り果てていた。
地面をずりずりと這いずり回りながら栄養になりそうな木の実や小動物の死骸を見つけては取り込み、人間や他の魔物から身を隠しては生き延びるだけの日々。
偶然見つけたこの廃墟に入ったのもその本能によるものだ。粘液で構成されているせいか、この身体は暗くてじめっとした場所を好むらしい。
そこで倒れていた狐耳の少女を発見し、初めて目の当たりにした栄養豊富そうな人間の新鮮な死体を前に興奮しつつその全身を取り込んでいって――
あくまでも推測だが、その結果人間の脳を手に入れたおかげでこうしてかつての自我を取り戻すに至ったのだろう。
「ごぼっ!?けほっ、けほっ……。あー、あーあー、コホン」
喉奥から込み上げた粘液の塊が吐き出されるのと同時に首の中で空気の通り道が形成され、試しに声を出そうとしてみると鈴のような声が発せられる。
どうやら体内までもが完全に作り変わったようで、俺はさっきまで無かったはずの心臓が胸のあたりで鼓動を開始したのを感じていた。
生命を動かす心臓がある。声を発する喉も、手も、足も、頭も。スライムの時には無かった部位の存在を確かに感じられて、久しぶりに人間に戻れたことへの感動が込み上げて少しだけ涙腺が緩む。
と、同時に。元の身体には無かった部位への違和感も俺は感じていた。
元の世界の人間にはあり得なかった、動物のような耳とふさふさの尻尾がある感覚。そして男の自分には無縁だったさらさらとした長い髪に、さっきからずしりとした重さを伝えてくるこの巨乳。
股間にぶら下がっていた相棒はすっかりと消え失せているが、そこに存在していたはずの玉に似た何かが下腹部の中にあるような奇妙な感覚もする。
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新鮮な死体で脳の欠損もなかったため、この少女の記憶も得ることができた。
盗賊から誘拐され、身ぐるみをはがされ、そして犯されて、死んでしまったようだ。
そして、その後この洋館に捨てられたのだろう。
この取り込んだ体の記憶が知識として、見ることはできるのだが、もともと街から外れた農村で育ったこの少女の知識はあまり多くなかった。
そんなことを考えながら、記憶を探っているとていると『スキル』と言う単語に興味をひいた。
異世界転生と言えば、これだ。
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『スキル』とは同じものが二つとない特殊能力のようで、俺が女神によって与えられた『吸収融合』もそれに該当するのだろう。
どうやらこの世界の人間でも全員がスキルを持っているわけではないらしいが、幸運なことに俺が吸収した狐耳の少女――タチハにはおあつらえ向きなスキルが備わっているようだった。
それは『食べた物の情報が分かる』というもの。
生前のタチハは料理に入っている野菜が誰の畑で採れたものだとか、隠し味に何を入れたかなんてことを当てては話のタネにしたりといった微笑ましい使い方をしていたようだ。
「ははっ、すげえ……俺にとってはチートスキルでしかないな」
そう、人間が口にするものと言えば農産物や家畜の肉なんかが主だろうが、今の俺は人間の死体すら取り込んで栄養にできるスライムなのだ。
試しにスキルを使ってタチハに関する情報を知ろうとすれば、記憶には無かった彼女の情報が欲しいままに浮かび上がってくる。
事細かな身長体重、体脂肪率、身体能力や病気の有無。スリーサイズや性感帯の場所なんてものまで知れたのは、恐らく使っているのがそういった情報に興味を持つ俺だからなのだろう。
情報は身体にまつわるものだけにとどまらず、簡単な生い立ちや住処、スキルまで分かるようだ。
これさえあれば今後吸収する死体の状態がどれだけ悪かろうと、最低限の情報は容易く得ることができるだろう。
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「とは言ってもなぁ。いきなり異世界で生きていけって言われたって、何をすればいいのか……」
文字通り死ぬまで働かされた社畜人生から解放されたのは心底嬉しいが、同時にそれに対する不安もあった。
上司に与えられた目的をただただこなすだけの日々、それに俺は多少の充足感を感じていたのだ。
それならタチハが住む農村に戻って気ままなスローライフでも送ってみるかとも思ったのだが、記憶を掘り返してみれば彼女が攫われた時には略奪やら放火やらで酷い有様になっていたようで――
「そうだ、あの盗賊共……」
ふと、借り物の心臓がちりりと焼け付くように熱くなり、今まで味わったことがないような激情が込み上げてくる。
きっとこれはタチハの感情なのだろう。慎ましく平和に暮らしていただけなのに突然襲われ、目の前で大切な家族を殺され、散々慰み物にされた後でゴミのように捨てられた。
もはや俺にとってタチハは他人ではない。記憶も身体も同じ物を持った相手、そして何より俺をスライムから人間の姿に戻してくれた恩人とも言える存在なのだ。
これから先、何の目的もやりたいことも特に無いのだから、せめて彼女への餞に復讐を果たしてやるのも良いかもしれない。
タチハの死体には盗賊によるものであろう数人の精液が残っていたため、それを死体ごと吸収した俺はスキルによって奴らのアジトや行動範囲なんかを知ることができていた。
とはいえ、流石にただの村娘だったタチハの身体のまま無策で挑んでは二の舞になってしまうだけなので、ある程度の準備は必要だろう。
……まずはこの目のやりどころに困る裸を隠すための衣服を探したりだとか。
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全裸のまま洋館内を探したが、着れるような服はなかった。
あったのは、腐乱した死体と腐りかけの死体。
そして、それらが着ている傷んだ服。
いや、服とは言えない。
ただ血痕と暴力で破れている傷んだ生地と言ったほうがいい。
どうしよか悩んだが、あることを思い出した。
《能力:吸収融合≫でそれらを吸収して、ひとつの服にすればいいんだ。
それから、体の一部をスライス状にして洋館内の死体から、その服等を吸収して回った。
全部の死体を吸収したら、とりあえずは外に出ても問題ないぐらいの服を作り出すことができた。
それに、死体からでもスキルをえることができたみたいだ。
だから、タチハの『食べた物の情報が分かる』で解析をしてみた。
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得たスキルは『幻覚催眠』といったものだった。
その名のとおり相手に幻覚を見せる能力みたいだ。
使い所は難しそうだが、何かあった時には使えそうな能力だ。
狐耳の少女――タチハの姿のまま洋館を抜け出した。
とりあえず盗賊がくることはなさそうだが、念の為にこの洋館から離れることにした。
それから、いろんなモンスターに出会ったが、スライムの能力で相手を吸収しつつ、なんとか生き延びた。
洋館を出て、1週間後。
焚き火の明かりを確認した。
恐る恐る近づきながら、どんな集団なのかを探ることにした。
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#1 勇者一行
勇者、魔法使い、戦士、僧侶の4人パーティー。
#2 奴隷商人と奴隷達
いろんな奴隷(体力系、美人系、亜人等系)と奴隷商人。奴隷商人の警護もいる。
#3 騎士団
モンスター退治のために王都から派遣された皇女様(騎士)と部下の騎士団
#4 その他
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さて、どうしたものかを考える。
この斥候エルフを吸収融合して、斥候エルフになりすましてこの集団に潜入してみようか。
それとも狐耳の少女のタチハの姿で助けを乞うてみようか。
それとも、ここ集団から距離をとり、別の街に向かおうか。
いろいろと悩む。
勇者一行と騎士団だから、俺がモンスターのスライムだとバレたら、速攻で討伐されてしまうだろう。
でも、それだけの戦力があるのだから、吸収融合できたら、かなり強くなる事が出来る。
皇女様になりすます事が出来れば、国の中枢にだって行くことができる。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、だがまた死んでしまったらしょうがない。
そんなことを考えていると、斥候エルフの仲間らしき人物が近づく気配がしてきた。
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その瞬間、ぞわりとした感触が俺の全身を走り抜けた。
俺は一瞬で体をスライムに戻すと、なるべく薄く地面に広がって体を目立たないように変化させていく。
「なんだ、邪な気を感じたが……おい、どうした?」
やってきたのはどう見ても十代半ばほどの日本人の少年だった。だが、纏うオーラが彼が勇者であることを示していた。
「……はっ!? あぁ、すみません勇者様。少々呆けてしまったようです。いやぁ、姫様の護衛で疲れてしまったのでしょうかねぇ」
「なんだ今のは……気のせい、か?それとも去ったか……いや、なんでもない。さぁ、野営地に戻ろう、そろそろ食事ができるころだ」
そう言うと、勇者と斥候エルフは身を翻して戻っていく。
……危なかった!体を走り抜けた鋭く冷たい殺意にすくんでしまった。あのまま身を隠していなかったらたとえタチハの姿だったとしても即座に見抜かれ消滅させられていた。そう確信できるだけの力量が彼にはあった。
急速に思考が冷えていく。たった一匹で魔物退治の備えをした勇者と皇族の護衛をなんとかできるなんて傲慢に過ぎたのだ。
そもそも、姫様を取り込み国の中枢に入ったとして何がしたいのだ、俺は国がほしいのか?
感性が魔族に寄り過ぎた結果、欲が前に出すぎて危機感すら薄れてしまったのか!?
たしかに欲望に正直になるのはいいことだろう、だがそれと無謀はまったくの別だ。
俺は無様に広がる粘液の姿のままゆっくりと、気づかれないように地面を這いずりその場をあとにする。
俺が何をしたいのか、それを冷静に考え直す必要がある。
だが、いつかあの勇者に目にものを見せてやりたい、という反骨心が芽生えた気がした。
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金髪美人の薬師フターバとして花屋さんで働きながら情報収集することにした。
なお俺は森でモンスターに襲われて記憶喪失である事にしている。
この街ファースターに住んでいたのでは無かったようだが、冒険者ではなく戦闘の心得もない
薬師のフターバがファースターから半日の距離しか離れていない森で薬草回収の為に森に入ったにしてはあまりにも軽装だった事から
あの森から離れていない別の街に住んでいる(住んでいた)に違いないからだ。
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「ありがとな」
盗賊らしき人物は笑顔でフターバからエールを受け取る。
「追加の料理とかはいかがですか?」
そのテーブルの会話を少しでも聞き取りたかったため、注文の質問をする。
エールを受け取った盗賊は「そうだな、、、」と悩んでおり、その時に同じテーブルの盗賊達が、
「前の村はたいしたものはなかったな」
「獣人たちはあまり高値で売れないかったしな」
「次はどうする?」
「勇者達と皇女様が近くに陣取っているから、あまり無茶はできないしな」
といった会話が聞こえた。
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それから、何度かエールと食事をそのテーブルに運ぶことで、アジトとしている場所の情報を得ることができた。
キーワードとして出ていた、『売春宿の用心棒』、『貴族様愛用の高級店』、『エルフがいる店』の3つで、『黄金の風見鶏』という宿を根城としていることがなんとなくだが分かった。
『黄金の風見鶏』は男エルフがオーナーをしている高級宿として知られているが、花屋で働いていた時に聞いた噂では、裏では美人どころを集めた売春を派遣している店の話があった店だ。
なので、アジトがそこであることは間違いないだろう。
酒場の仕事が終わり、ベッドに横になりながら考える。
アジトが分かったが、どのようにして潜入して、それを確定させるかが問題だ。
今の能力だと、盗賊の一人二人をやっつけたぐらいのところで、数の暴力に負けてしまう可能性が高い。
さて、どうするか?そんなことを考えていたが、その夜はいい案は思いつかなかった。
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やはり今以上に強くなるしかない。
奴等になくて俺にあるモノ…。
【吸収融合】能力!
しかし魔物や死体ならともかく、生きた人間を吸収融合するという事は相手を生命や肉体ごと奪い盗るという事!
復讐したい憎む相手を倒す為に奴等と同じ事など…他人を犠牲にする事など絶対できない。
クソッ、何かないか!?
「ステータスオープン!」
スキルやスライムの身体の能力を改めて入念に精査し調べる。
※ちなみにステータスオープンは転生者だけの独自のものらしくタチハもフターバの知識にはなかった。
※タチハになって無意識で自然と使えた。
「何かないか…」
無意識で口に出た言葉だったが突然脳内とステータス画面に
【回答:1件の該当有り。
吸収せずに体内に取り込み、入り込み能力をコピー、自身にペーストする方法がスライムであるマスター清彦にのみ可能。
なお、その状態では対象者の身体を着ぐるみのように纏う為、対象者の容姿となる。
コピーはコピー対象のレベルに応じて時間が掛かる方向な為、注意が必要。
なお、コピーしても体外離脱した瞬間から徐々に能力、スキルが消去されるので消去されるまでの間に可能な限りの反復訓練して身体で覚える、習得を推奨する】
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びっくりした!!
喋れるのか!?
あっ…確かに俺、ステータス画面で状態表示だけ見ていただけで、質問とか検索とかした事なかったわ。(苦笑)
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これはいいことを教えてもらった。
次からこの対象を皮化させる能力も使わせてもらおう。
夜は酒場で働いているので、仕事は夕方前に行くことになる。
それまでの時間は情報収集と皮化させる対象探しに街をぶらつくことにしてみた。
街の中心部近くで行われているバザーで店を回っていると、知っている顔を見つけた。
その人物は斥候エルフ。
斥候エルフは一人で買い物を楽しんでいるように見えた。
怪しまれないように様子を見ようとおもったが、相手も斥候のジョブの持ち主なので、俺の視線に気が付いたようだった。
どうしようか?ばれたか?
緊張をしたこちらの表情を読んだのか、「どうしましたお嬢さん?」と、やさしく話しかけてきた。
あぁ、よかった、ばれていない。
「すみません。知り合いに似ていたので…つい、見入ってしまっていました」
そんな、ありきたりの言葉でごまかしたのだが、なんと斥候エルフはその嘘を信じたようで「そうなんですね。」と返事をしてきた。
(そうだ、この斥候セルフを皮化させて能力をいただければ、盗賊の拠点に入り込むことができそうだ。)
(でも、どうやって、おびきだして皮化させるか。)
(そうだ、以前こいつには『幻覚催眠』をかけたことがある。なら、それを再度使えるはずだ。)
その、妙案を実行することにした。
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「わたしそこの酒場で働いているんですけどまだ営業前で時間があるんです。
エルフさんは冒険者ですよね?食事ご馳走しますからお話とか聞きたいです♪」
街の住民が冒険者に冒険話等の話を聞くことは多い。
インターネットもラジオもテレビも無い世界だからな。
娯楽みたいなモノだ。
「いいよ♪」
斥候エルフの少女も快諾してくれた。
「わたしの名前はフターバ、昼間は花屋さんで夜は酒場で働いているの」
「ボクの名前はワカーバ、なんと勇者様と一緒に冒険している…ん…だ…………」
歩きながら話し掛け、通りの人目につかない路地で
幻覚催眠を掛けた。
「悪いね。ちょっとワカーバの身体とその能力を貸してくれ」
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そして、再度だれもいないことを確認してワカーバを皮化させた。
皮化をさせた方法、その対象に「皮になれ」と日本語で命じるだけで、数秒でワカーバは皮になった。
ワカーバの皮を手早く丸めて、ワカーバの武器などと一緒に魔法バックに入れ込んだ。
部屋に戻り、ワカーバの皮を広げ、スライム化して口の部分から中に入り込んだ。
すると、すぐにワカーバの皮とスライムの体が一体化して、見た目は本物のワカーバができあがった。
3ed4ab61 No.837
酒場の営業時間までまだ間がある。
また斥候エルフのワカーバが勇者パーティーに戻る時間的余裕も
ワカーバが食事したりフターバに冒険話をするくらいの時間はあるから大丈夫だろう。
皮化して斥候エルフのワカーバの身体になったのだ。
この身体の試運転を兼ねて高級宿の『黄金の風見鶏』に忍び込んでみよう。
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『黄金の風見鶏』の周りには結界とまではないが、ある一定以上の魔力の持ち主が入ると、警告がなる魔法障壁が設置されていた。
これはワカーバの斥候としての知識が教えてくれた。
この世界では、それなりにスタンダードな結界魔法障壁みたいだ。
もともとはモンスターの侵入を知らせる目的で使用するのだが、『黄金の風見鶏』ではモンスターだけではなく、ある一定以上の能力を持った人間にも発動するようにセッティングされていた。
あぶなかった。
何も知らずに、フターバの姿でこの『黄金の風見鶏』に近づいていたら、あっさりスライムとして討伐されていただろう。
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まずはワカーバの身体能力を使って、黄金の風見鶏の外見から、屋敷の見取図をイメージしていく。
高い視力を使って視覚的に。
今までの経験を使って建物内の部屋の配置を。
魔力感知を使って建物内の人の動線を。
そんなこんなで、だいたいの部屋の配置は検討がついた。
わからない場所は地下と最上階の一部。
おそらく、地下がアジトで最上階は黄金の風見鶏の支配人室になっているのではないかと推測した。
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あの女性はフターバとして花屋さんで働いていた時の常連のお客さんだ。
たしか、サファリと名乗っていたと記憶している。
花を買いにきていたのは、病に臥している彼氏のために、毎日のように花を買いに来ていた。
あんな美女に気に入られているなんて、贅沢な男もいたもんだ、と思っていたことを思い出した。
でも、花屋にくるときはあんなに着飾っておらず、町娘といった感じの服しかきていなかったはず・・・。
そんなことを考えながら、サファリが宿の中に入っていく様子を眺めていた。
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(サファリさんを皮にして着込み、俺がサファリとして堂々と入店するのはどうだ?
サファリさんに幻覚催眠を掛けていつも通り客の相手をしたって思い込ませ、
サファリさんの客相手にも幻覚催眠で激しいプレイで快感で気を失ったって思い込ませて眠らせれば2時間は館内で活動できる。
魔物の魔力を感知し発動する対魔物探知結界も
能力探知結界の魔法障壁も外部からの侵入には強くても、館内部に入り込んでしまえば関係ない。
スライム状態で行動し放題だ!
1bb6b157 No.975
またエルフの皮をワカーバを着込んでいる事で魔物の俺でも魔法障壁に探知されることも、
結界に焼かれることも無く、先ほどは易易と結界を通り抜けられた。
偵察も成功したしワカーバの身体の試運転も大成功だ。
俺は黄金の風見鶏の関係者や盗賊団の誰にも気付かれる事無く、街に帰還した。
先ほどの路地に到着して周囲を確認。
安全を確認してワカーバの皮を脱ぐ。
脱いだ皮のワカーバがペラペラの状態からムクムクと膨らみ元通りになる。
時間にして10秒ほど。
無意識状態で起き上がり、焦点が定まっていない瞳に意思が宿る。
「ゴメン。ちょっと呆けてた。うわの空だったよ。」
皮になっていた間の記憶は無いようだ。
催眠を掛けて確認したがやはり皮になっていた間の記憶は無い事を確認した。
「ワカーバさんの好物ってなんですか?お店のメニューにあればご馳走しますよ」
「本当?冒険話だけでそれは悪いよ」
「いいんですよ♪私にはそれだけの価値とお礼がしたいんですから♪」
1d088f41 No.998
斥候エルフのワカーバと食事をしながら、勇者とお姫様騎士の情況を聞く。
いろいろと教えて貰い助かった。
守秘義務は!?とも思ったが、この世界にはそんな考えはあまりないのだろう。
ワカーバと別れた後は、花屋で花屋の主人からサファリのことを聞きてみた。
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「これはいったい….」
サファリさんのことを聞き回って数時間後、俺は木陰で考察をしていた。
花屋の主人が知っていた情報はサファリが彼氏のために花を買っていることだけであった。これはすでに持っている情報だ。
新情報を得るため、花屋の主人以外にも10人ほどの町人へ話を聞いたが、口を揃えて同じことを言っていた。
そして、町人にはそれ以外の情報が一切合切知られていない。サファリがどこで暮らしているのかも。サファリは何が好きなのかも。サファリの彼氏の名前も。
これは何かが隠されている。
「おや、考え事ですかフターバさん」
俺に親切なトーンで男が声を掛けてきた。顔をよく見るとその人は俺にギルドについて教えてくれた門番であった。
「こんにちは、門番さん」
「うむ、こんにちは。今日はオフだから門を守っていないがな」
ワハハと笑う門番は悩んでいた俺を心配してくれたらしい。下心を感じさせない笑い方から、某コミニケーションゲームの森の住人を連想してしまう。
「ここ最近は奇妙な誘拐事件が起きているから、ボーとしていると危ないぞ」
「奇妙というのは?」
「ああ、実は女性だけではなく、男性も誘拐されている事件が多発しているんだ。不思議なことに一家全員が誘拐される事件もあるんだ」
その瞬間、俺はサファリの正体についてある結論が思い浮かんだ。これは俺が転生しているからこそ、考えに浮かんだのだ。
俺は門番の手を訴えるように握る。
「門番さん、名前教えて」
「私はティーニャだが」
「そうじゃなくて、誘拐された人たちの名前を教えて。できればその人たちの似顔絵も」
しまった。盗賊団のことに絡んでいると考えたことにより、フターバの感情が大きく出てしまった。
門番ことティーニャは俺の必死な顔を見て、真剣な顔になって答えた。
「わかった。資料をまとめている場所が門の近くにあるからそこに案内をしよう」
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門番のティーニャに連れられ、街の警備隊が保有している建物の前にきた。
しかし、ティーニャは俺を建物内に入れず、資料を持ってくるから外で待っているようにと指示してきた。なんでも、室内が男臭くエロ本とかが散らかっていることと、一般人には見られてはいけない資料があることを伝えてくれた。
前世が男である俺は散らかっていようが匂いが臭かろうが気にしないが、前世が社会人であった俺は機密事項の大切さを理解している。一度だけ同僚が漏らした結果、それはそれは面倒くさい状況となり、俺らの会社内の人の残業量が増えたことがあった。
とりあえず待つこと数分、扉から十数枚ほどの紙を持ったティーニャが出てきた。
「すまない。待たせたな」
これをと言ってティーニャは資料を渡してきた。俺はお礼を言うとすぐに似顔絵を見た。
そして、俺の考えが答えにリンクしていく。
一枚の似顔絵に描かれた男性の顔がサファリさんにそっくりであったのだ。
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花屋でフターバで見た時も、斥候エルフのワカーバになって黄金の風見鶏で見た時も
サファリさんは間違いなくエルフの美女だった。
だがこの一枚の似顔絵に描かれた男性の顔がサファリさんにそっくりである理由。
それは…。
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『性転換』
俺はあまりにもファンタジーなことを心の中で呟いた。
しかし、《吸収融合》というチート能力によって俺は、タチハとフターバの体になることができる。他人の性別を変えるスキルがあっても不思議ではない。
「フターバさん、もういいかい?」
ティーニャに声を掛けられて、思考を現実に戻す。
「ありがとうございます。これはお返しますね」
「返さなくていいよ。その資料はフターバさんが持ってほしい」
「この事件は門番の私達だけでは絶対に解決できない。急な外客や怪しい商人の行き来が連日のようにおこなわれるため時間がないからだ。今日は暇だったが、休みの無い月があったりする」
「・・・」
「私の勘であるが、フターバなら解決してくれると思っている。もし、危険が生じると感じた場合は私達を頼ってくれ」
「ありがとうございます」
俺はティーニャに感謝して、その場を後にした。
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「フターバちゃん、お酒のおかわりちょうだい」
「はーい」
夜になり、勤め先の酒場でアルバイトをしていた時だった。ワカーバが来店してきたのだ。
ワカーバはお酒を一人でグビグビ飲みながら、ちらちらと俺の方を見てきた。何かがあって、その愚痴を俺に聞いてほしいのだろうか。
「どうかいたしましたか、ワカーバさん」
「ねえ、聞いてよフターバちゃん」
ワカーバは一人で今やっている仕事についてをベラベラと話し始めた。それは俺にとって必要な情報であった。
内容は以下のとおりだ。
・勇者達は指名手配されている男を探してこの街を訪れた。
・指名手配犯は凄腕の魔術師であり、特別な魔法を使える。
・今回は秘密裏に遂行するため、勇者パーティと皇女様のみしか真の目的を知らなかった。
・しかし、彼らは魔術師の尻尾を掴めずにいたため、斥候であるフターバ含め4人に情報を共有し始めた。
・フターバは今まで秘密を共有してくれなかった勇者達に対して拗ねている。
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>すみません、最後の部分はワカーバです。