994ac20e No.624
ある朝起きた時、僕は女性になっていた。
『突発性性転換症候群』――世間で『TS病』なんて呼ばれているこの病気は文字通り罹患者の性別を変えてしまうというもので、原因も治療法も未だに見つかっていないらしい。
それからはとにかく大変だった。
慣れない女性の身体での生活や、そのために必要な生活用品の用意などなど。
幸いにも男の時と身長が変わらなかったから私服を買い替える必要はなかったけど、制服は女子制服を着ないといけないわけで、女性の身体で採寸されるのはとにかく恥ずかしかった。
それと、大きくなってしまった胸を支えるための下着を買った時なんかも……。
そうして女子高生としての生きていくための準備が整った僕が真っ先にしたのは、付き合っていた双葉さんに別れを告げることだった。
だって当然だろ?付き合っていた彼氏がいきなり女性になってしまうだなんて受け入れられるはずがないし、何より周りから奇異の目で見られてしまう。
ところが双葉さんはキョトンとした顔で
「え、なんで?それならアタシの彼氏じゃなくて彼女になればよくない?」
なんて言ってくれて……彼女のこういった部分に、今まで何度救われてきただろうか。
そして今日、女性の身体になってから初めての登校日を迎えた僕は未だ女装しているような恥ずかしさを感じつつも、双葉さんに引っ張られるようにして通学路を歩いていた。