3cb09ddb No.692
「あなた、しぶといのね」
吸血鬼ハンターをしている俺は、1000年を生きる吸血鬼・タチーハの前に倒れていた。
用意した道具も武器も一切合切通用せず、完膚なきまでに負けて、俺も傷だらけだが意識を手放せずにいた。
「しぶとかったら、なんだ…。殺すのか…?」
「まさか。ここ100年で一番楽しめたわ」
しれっと言ってくれる。
「それにね、あなたくらいしぶといなら、いいかなって」
そのまま無表情で近づいてきて、タチーハは俺の上半身を持ち上げた。
「そのまましぶとくいてね。わたし、もう疲れたの」
タチーハはそう呟いて、俺の首に牙を突き立てた。
3cb09ddb No.694
『目覚めたのね、清彦』
頭の中でタチーハの声がする。どこかで見ているのか、それとも念話で声を飛ばしているのか?
『端的に説明するけど、わたしはあなたの血を吸った。そしてわたしの体を明け渡したわ。その体、あなたにあげる』
は?
『わたしね、1000年以上生きてて、もう疲れたの。死なないし、誰も殺しに来ないし、近くの街だとお城ごと観光資源扱い。わたしは認めてないのにね』
俺に反論を許さないように、タチーハの声は続く。
『だから、135年ぶりのハンターで、一番楽しませてくれた清彦に、私の体をあげる事にしたの』
「ちょっと待て!!」
『せっかくだから吸血鬼の生を楽しんでみてね。あ、体は変身させられるから自由自在よ。このスケベ』
俺の反論を無視して、タチーハの声はさらに続いた。
『じゃ、わたしはあなたの中で眠るから。もう起こさないでね』
その言葉を最後に、タチーハの声は聞こえなくなった。…あいつめ、言いたい事だけ言って終らせたな?
3cb09ddb No.695
……よし、落ち着いて考えろ。俺は中善寺清彦、24歳、男、寺の跡継ぎを兄に任せて吸血鬼ハンターを始めた。
タチーハを倒そうとして負けて、今現状このような事になっている、と…。
「…どうすりゃいいんだよ、これ」
蝙蝠の鳴き声が遠くから聞こえてくる、タチーハの居城の中で、俺は唐突に与えられた吸血鬼(それも女の子)の身体で、途方に暮れるしかなかった。
>まずはどうしよう
>数字と、その枠内のαかβを選んでください。あるいは別選択肢を選ぶのも十分にアリです。
#1:仕方ないから城内を探して、メイド等がいるか確認する
# αメイドがいた
# βメイドはいない
#2:相方に連絡をして城に来てもらう
# α:男性の利明
# β:女性の双葉
#3:まずはこの体を確認してみる
# α:ロリのままでいいかな
# β:大人の女性の方がいいので変身してみよう
#4:しょうがないので市役所に行く
# α:観光課でお城を正式に観光資源にする
# β:戸籍住民課で女体化の申請
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#1:仕方ないから城内を探して、メイド等がいるか確認する
# βメイドはいない
取り敢えず場内を探して探索してみたのだが、従者らしきメイドとかは一切居ない。そう言えばタチーハと戦っている時は眷属と見られるコウモリしか居なかったのだから。他にも何か無いかと探して見たのだが。
「起きろ!タチーハ!話をしたい!聞こえているのか?」
『あー!!もぅ、煩い!折角眠ろうとしていたのに、大きな声を出して起こさないでよ!わざわざ声を出すな!心の声でも会話が出来るから、今後はそれでやりとりして!』
頭の中にタチーハの声が響き渡るのだが、心の声でタチーハと会話が出来るのは喜ばしい事なのだが。勝手に言いたいことを言って終わらせるだとか筋が全く通らないのだから。
『それで、わたしに何の用?元の身体に戻りたいのなら変身能力で清彦の姿に戻れば解決だし。太陽とかは弱点は克服している、血とか見ても暴走しないし、血液とか摂取しなくても問題無い。まだ何か問題でもあるの?』
(大有りだよ!元の姿に変身してギルドに戻ったとしても中には吸血鬼だと見破れる冒険者とか居る可能性がある。タチーハと融合した時点でもう、俺は元の生活に戻る事が出来ない!!どうしてくれるんだ!?)
『…………えっ、マジで?』
その返答はあまりにも天然とも言える声であり、タチーハはガチで動揺していた。
『で、でも。変身能力とかであんたはどんな女性にも変身出来るはずよ!?それに男なんだから、私の圧倒的な力でねじ伏せたりして、異性との性行為とかも出来て』
(論点とかずらさないでくれるか?タチーハ。悪いが、俺をこんな身体にしてしまった以上は何が何でも責任を取って貰うからな)
『せ、責任を取れって?な、何よ。わたしは1000年以上生きてて、もう疲れたのよ。死なないし、誰も殺しに来ないから』
(タチーハ!お前の価値観を俺に押し付けるんじゃねぇ!?良いか?お前と融合したという事は、これから俺はタチーハの身体で何年も何年も生きると言うことになるんだぞ!?変身能力で性行為とかやったとしても、いずれにせよその行為に飽きるのは目に見えているからな。)
『だったら、何?わたしにどんな責任を取れと言うのよ』
(タチーハ、お前は俺に身体を渡したってことは何か企んで居るはずだ。主導権とか何時でも奪える事も予測しているのも見抜いている、だからお前には真の目的を聞かせて欲しい。何か事情とかあるんだよな?)
俺の推理を打ち明けるとビクっと身体が震えた、恐らくタチーハはまだ俺に何か隠し事がある様なのは明白だったのだから。
96ffc80c No.720
(よし、俺の武器を探そう。そして、心臓に突き刺そう)
『え、死ぬ気!ねぇ、ちょっと待って!』
体が急に動かせなくなった。おそらく、タチーハが肉体の主導権へ干渉しているのだろう。
(やはり、お前は何か企んでいるな。教えろよ、お前の真の目的を!じゃないと俺は自害を選択し続けるぞ)
『あなたには生への執着がないの!』
(あるけど、吸血鬼に利用されて生きていくのはもうごめんだ)
『本当はあなたに無知でいてくれると、成功しやすいと思っていたけど、あなたは自殺する気でしょう。わかったわよ。はっきり言うわ』
「私の目的はただ一つ、私の母親『淫楽』を殺すこと」
96ffc80c No.725
『淫楽』その通り名を持つ吸血鬼を俺は知っている。
『淫楽』の本当の名前は誰も知らない。ただしその活動内容及び伝説や噂は知らない人は皆無と言えるぐらい有名である。
『淫楽』は老若男女、ありとあらゆる身体に変身することができるため、どれが本物の身体なのかわからない。『淫楽』は性的行為が好きであり、多くの人間を所構わず襲う。『淫楽』と身体を重ねた者は心の全てで『淫楽』を敬愛、崇拝してしまうようになってしまう。最終的に、快楽によりドロドロに溶けてしまった心の持ち主を『淫楽』は肉体ごと食べる。
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「お前、『淫楽』の娘だったのか?」
『驚くのもそうよね。アレが“仔”を作るとは、誰も思ってなかったでしょうし』
「正直な。だから驚いてる。…そして察するに、お前は『淫楽』を殺そうとして、諦めたのか?」
『ご推察の通り。…と言っても、諦めたのは300年前。それまではずっと殺そうとしたんだけど、発見は難しいし、すぐに逃げるし、『淫楽』に吸収された者を使われて足止めの繰り返しだった。
その後思ったのよ、なんてつまらない吸血鬼としての生を過ごしていたのかって。…そう思ったら、全部が空しく思えてきちゃった』
「だからこの城で引き籠ってたのか」
『それもその通り。ここは元々、生前からわたしの持ち物だから帰ってきたんだけど、気付けば観光資源扱いされてて、そこに住んでる邪悪な吸血鬼扱いされたわ』
「確かに、人間側からすれば、いつ出てくるか分からない吸血鬼は退治したくなるが…」
『だから何もしなかったのよ。無害だって伝えたかったからね。そしたら噂だけが膨れ上がって、ちまちまやってくるハンターを蹴散らしてたら、いつの間にかヴァンパイアロード扱いよ』
「だったらそのまま討たれればよかったろうに…」
『何にもできなかった吸血鬼としての生なら、せめて散り際だけは自分で選びたかったの。それに今まで来たハンター、ほとんど弱かったし…』
「それで散り際を見逃し続けて1000年か…」
『なによ、あなた相手なら死んでもいいと思えたのよ、ちょっとは喜びなさいよ』
「喜べねぇよ。…それで、俺にお前の体を与えたわけか。吸血鬼の体で、ハンターとして動いてもらって、どこかで『淫楽』を殺すために」
『そういうことよ。…まぁ、見通しが甘すぎたのは謝罪させてもらうけどね』
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なるほど、大体のことは理解できた。
だがしかし、問題は残る。俺がタチーハの肉体を使って『淫楽』を殺しても、俺が吸血鬼になった事は覆せない。そこをどうするか。
「じゃあ、俺を人間に戻す方法は?」
『端的に言えば、無いわ。吸血鬼化は不可逆な変質なの。人間に戻るという事は、“茶碗蒸しから卵を取り除いて殻に戻す行為”と言えばわかりやすいかしら』
…ギリ、と奥歯を噛む。随分と卑近的だがその通りだ。殻はひび割れれば戻らない、卵は調理をすれば戻らない。そういうものだ。
『…こういうのもなんだけど、まずはハンターズギルドに説明しなさい。中善寺清彦は吸血鬼タチーハになりました、と。それだけで事故は減るでしょう?』
「それもそうだが…。…誰が信じるんだ、そんな事」
『清彦の死体と武器を持って、ギルドに報告することね。その上で体の主導権は自分にある事を説明すればいいのよ。言葉を尽くしたら、あとは信じる信じないは相手次第。違って?』
「それで万一信じられなかったら?」
『わたしがその場で分裂し、死ぬわ。吸血鬼タチーハは死に、残るのは『タチーハの力を受け継いだ吸血鬼清彦』だけ。
…仮にそこまでされて信じられないなら、あとはもう人間の薄汚さが浮き彫りになるだけ。清彦としても人間に未練はなくなるんじゃない?』
「好き勝手言いやがる…」
だが、タチーハがいう言葉ももっともだ。説明しないと、俺がタチーハと見做されて攻撃される。吸血鬼になってしまったことを説明すれば、余計なトラブルは避けられるんじゃないか。
>説明をするか否か
#1:ハンターズギルドに説明をする
# α:直接出向いて説明をする
# β:写真を撮り、手紙(メール)を使って文章で説明をする
#2:怖いので相方に先に説明する
# α:男性の利明
# β:女性の双葉
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#2:怖いので相方に先に説明する
# β:女性の双葉
「ハンターズギルドに説明するしか無いとは言え、直接出向いて行くのは本当は嫌何だよな」
『何か問題でもあるの?ぱぱっと説明とかした方が良いじゃない』
「タチーハは知らないかもしれないが。元々、俺はハンターズギルドでは厄介者として扱われているんだよ。相棒の双葉が居なかったら、俺はハンターズギルドに入る事は出来なかったくらいだからな」
『双葉?その人が清彦の相棒だとしたら、どうして私と一緒に立ち向かおうとしなかったのよ』
「死なせたくないからだ、そもそも俺は双葉の事が好きだからな」
『えっ?それってつまり、恋しているって事!?』
何故かタチーハがテンションとか上がって居るのは気の所為と考えたいが、まさか恋愛に関しての話題とかは興味津々なのか?そんな事を考えていると。
『当たり前よ!これでもわたしは恋愛に関しては一番好きな話題なのだから。わたしは元々はレズなのよね♪女の子同士での性行為とかして幾つか力とか得たことがあるし。』
「おいおい、ちょっと待て!?れ、レズだと!?それだったら俺を吸収するのは嫌なんじゃないのか!?」
『男の子が女の子になったらどんな反応するのか肉欲に溺れた場合は主導権を無理矢理奪えば良いと考えたからよ。それに清彦を吸収しなかったら、異性の身体を変身する事が出来なかったからね。"因みに異性の身体を維持するのは24時間"位なら出来るけど。女性の身体は別、わたしの性別は元々女性だから、どれだけ意識を失ったとしても変身は解除されない。それだけは保証してあげる』
タチーハの変身能力について知ったのは良いのだが、女性の身体に変身してどんな事をされても変身とかは解除されない変わりに男性の身体に変身するのは可能だが24時間しか維持出来ないと言うのは、色々と微妙な感じかもしれないが。
「タチーハについて色々と知らなかったけど、レズだからという理由で双葉を絶対に襲うなよ?」
『それだったら、清彦は女の身体で変身して男性との性行為とかしないで頂戴。それを守ってくれるのであれば"タチーハ"だけは襲わないわ。男と性行為は絶対にしたくないし、もし男が無理矢理にでもわたしを襲おうとしたら。容赦無く殺すわ、それだけは覚えておいて』
「そもそも性行為とかはする事は無いと思うんだが………取り敢えず、相棒の双葉と連絡をするか」
俺は相棒の双葉と連絡を取るために懐から紙を取り出した、この紙は連絡用としている所謂メールの様なものだと考えれば解るだよう。取り敢えず、双葉には吸血鬼のタチーハの詳細や現状について詳しく説明をした。
「取り敢えず、これで双葉は此処に来てくれるはずだ」
『ふぅん、それだったらさ。清彦。双葉について教えてくれない?ハンターズギルドでは厄介者として扱われているのに双葉が貴方を手とか差し伸べた、恋バナを聞かせて頂戴!』
「はぁ、まぁ。対した事は無いんだが、別に良いか。双葉が来るまでの時間潰しと言う事で付き合ってやるよ」
こうして、俺はタチーハに相棒の双葉との出会いについて語る事にした。
1683c8d4 No.756
理由としては、まぁ単純な話だった。
俺は寺の息子で、次男だった。寺を継ぐのは兄貴だと決まっていて、俺は何をすればいいのか分からない。自由と言えば聞こえはいいが、ある意味では産まれた時から兄貴に存在意義を取られたとも言える。
だから俺は、とかく不真面目だった。親父譲りの才能はあって、密教の鍛錬はすぐにできるようになったけど、才能を鼻にかけて『まとも』とは言えない半生を送っていた。
ギルドを通さない裏の仕事を主に引き受けて、悪霊やバケモノを簡単に倒しては「難しかった」と言って成功報酬の増額を吹っ掛ける、博打はする、酒は飲む、とまぁ…、好きに生きてる破戒僧だったわけだ。
『…あなた、随分と荒れてたのね』
「当たり前だろ。親父に『兄貴の予備』としても扱われなかったなら、そうもなるさ。実際親父に守られたことなんて無いしな」
そんなこんなで22になった頃だったかな。好きに生きてるはずなのに、ちっとも満たされず、まだバカやってた俺は、いわゆる業界の鼻つまみ者になってた。それでもよかったんだが、それを良くないと思ったのが双葉だ。
元々は親父が兄貴に宛がってた相棒らしいんだが、双葉の方が親父と兄貴を見限ったらしくてね。俺の方にやってきたんだ。
……まぁ、最初は親父たちの手の者かと思ったよ。何か都合があって俺を引き戻そうとする、都合のいい女みたいな、な。
だが違ったんだ。双葉は「俺」を見てくれたんだ。
「清彦、あなたは才能がある。でも、それを腐らせては駄目。あなたはあなたよ。
『あの男の子』で、『アイツの弟』であるけれど、それがすべてではないわ」
「あなたはずっと『あなた』を生きてきた。家族に頼らず、一人で生きてきた。だから満たされないの。
…人は、手と手を取れる。手を取りあえる。今はその手に何もないなら、あなたを信じてくれる誰かの手を掴めばいいの。
大丈夫、きっと掴めるわ。あなたが『誰でもなかった』のなら、今からだって『誰にでもなれる』もの」
そう言って、手を取って、笑ってくれたんだ。出会って5分もしてない男にだぜ?
…その時から、一目惚れしてたんだよ、俺は。
『まぁまぁまぁまぁ』
「めっちゃ嬉しそうだなお前」
…そこから、元々正規で仕事をしている双葉に口添えをしてもらってハンターズギルドに入り、正規の仕事を受け始めた。そうして裏街道じゃなくて、日の当たる道を歩き始めたんだよ。
勉強もし直して、双葉と一緒に仕事をして、そうして今に至るんだ…。…2年ちょっと一緒にいて、告白も出来てないけどな。
2767af68 No.762
#2
「俺はこっちだ」
俺は双葉の方に向けて軽く叫ぶ。甲高い声が城の中で響いた。
『ちょっと、あなたは今、女の子の身体よ!双葉はあなたを清彦だとわからないわ』
「それについては大丈夫だ。双葉は俺が清彦だとわかってくれ
タチーハを宥めていると光の魔法弾丸が耳元を横切った。ズレて音が聞こえる。
『本当に大丈夫なの!』
「弾丸の破裂音が聞こえないから大丈夫だ。たぶん」
『たぶんじゃダメなのよ』
城内で聞こえる足音が少しずつ大きくなっていき、止まった。双葉が来た。
目の前に現れた双葉が俺を真剣な眼差しで見ていた。手は魔法を放つための準備がされていた。
「そこのあなた方、手を挙げなさい。じゃないと滅殺するわ」
若干の静寂がこの空間に生まれる。双葉は狩人の眼をしている。タチーハは冷や汗で何か文句をいいそうだ。
俺はゆっくりと右腕だけを挙げて、あらかじめ決めていた言葉を口にした。
「青信号、今日の晩飯、カツカレー」
30375120 No.763
「やはり、清彦だったのね」
双葉は攻撃姿勢をやめて、俺の目の前に来る。
『え、え?何を言っているの?何が起きているの?』
「俺達は任務中に別れた時のためにあらかじめ合言葉を決めているんだ」
混乱しているタチーハのために俺は改めて説明をする。
合言葉を決めるのは任務がある初日で、現場に行く前の車内である。そして、任務毎に合言葉を変えている。そのため、合言葉がトンチキになってしまうことが多いが、敵にばれるよりはましだ。
『でも、この身体が清彦だってどうしてわかったのよ』
「ああ、それはだな」
「始めましてお嬢ちゃん。私、魂だけを滅することができるハンター、青森双葉です。よろしくね」
双葉は握手を求めながら、笑った。
9a8c3a2f No.765
『ちょ、ちょっと待って。魂だけを滅することができるハンターって、もしかして私の声とか聞こえているって事?』
「えぇ、その通りよ。肉体は吸血鬼のタチーハの肉体で精神同居しているのはタチーハと清彦の2名。主導権を得ているのはタチーハと言った所かしら?何時でも清彦を排除する事は出来るけど、特に肉欲とか溺れたら遠慮無く清彦の精神を殺す事を本気で考えている…って所かしら」
相棒の双葉は俺の事情を瞬時に把握していたのはメールでのやり取りとかで把握しているとは言え頭の回転はめちゃくちゃ良いのだ、そのせいかタチーハは色んな意味で動揺していた。
『嘘でしょ、精神乗っ取りをメインとする吸血鬼を容赦無く叩き潰すヴァンパイアハンターが存在するなんて……』
「あはは♪そんなに褒めなくても良いわよ?タチーハちゃん。私は清彦と何年も相棒として努めているのだから、アイコンタクトだけでも相性はバッチリなのよ?」
双葉は自慢げにドヤ顔しているムードメーカーの様な人物なのだが、女性のヴァンパイアハンターの中ではほぼ上位に存在して居るのもあるし。パーティーとして組むとしたら必ず俺だけを選ぶと言う拘りを持っているからな。
「因みにそっちの事情は把握しているからその点は安心して頂戴。タチーハの目的は『淫楽』を殺すと聞いているけど、私もそいつを殺そうと考えているからお互いに利害が一致している、喜んで協力するわ」
『あ、ありがとうとでも言うべきなのかしら?え、えぇ、こっちこそ宜しくお願いするわね』
タチーハは双葉の巧みなコミュニケーションに押されているのが理解出来るが、話術に関しては一級品とも言えるだろう。交渉に関しても殆ど双葉に頼っているのもあるかも知れないかな。
「それにしても、清彦がこんな可愛い女の子になるなんてね。これで何時でも私と一緒にお風呂とか入ったり普通に眠れるわね?」
「ちょっと待て!?何故そうなるんだ!?確かに今の俺は女の子の身体だけど、中身は男なんだぞ!?」
「今までは男女別々と言う事で個室一つずつでやり取りとかしていたけど、同性同士ならお金の節約になるわ。それに、はっきり言って今の清彦は女体の身体とかは絶対に慣れていない、男と性行為をしたら確実に堕落するわよ?」
相棒の双葉が真剣な表情で俺の事をじっと見つめていた、女の身体になってからはまだ半日位しか立っていないと言うのもあるが。
『清彦、私が言うのも何だけど。これだけは言っておくわね?女の身体は本当にデリケートなのよ。性的興奮とかしたら身体全体が敏感になるのよ、ちょうど良いから。女の身体について勉強をするのなら、相棒の双葉に頼れば良いんじゃないかしら?』
「流石、タチーハちゃん。それはすっごく良いアイデアね?清彦は異性の身体に変身しようとしても時間制限とかあるし、普段は女の身体で居ることになるから。暫くは私が清彦に色々と教えようかしら♪」
『ふふっ、双葉。貴女は私とは良い関係になれそうね。とても気に入ったわ』
いつの間にかガールズトークが発展している事に俺は別々の個室にしようと提案しようとしたが、今後は相棒の双葉と同室になる事が確定となってしまった。まぁ、お金の節約とかなれるのならそれでも良いかも知れないが。
96ffc80c No.779
タチーハと双葉が出会ってから約一時間後、俺達は城を出た。そして、人目と防犯カメラのない公園で俺は男の姿に戻り、日本行きの飛行機に乗った。
飛行機の中で、俺と双葉はタチーハに現代の常識や日本語などを教えてた。やはり、タチーハは100年以上城に引きこもっていたため、俺たちの当たり前に驚いてばかりであった。
飛行機が日本の国際空港に到着したら、入国手続きをおこなう。空港内でタチーハは子供のように興奮していた。
何事も無く、無事に日本へ帰国できた俺たちは今後の話し合いを兼ねて近くのカフェで一息つくことにした。
64bb99c4 No.784
双葉がタチーハに釘を刺したところで、口元の主導権を取り返し、話を続ける。
「最後に3つめ。これをどうやってギルドに証明させて、理解させる?」
「…まぁ、そこよね。清彦を倒すくらいの吸血鬼が、その『親』を殺したいだなんて言って、信じるメンバーがどれだけいるか」
『ホントなのに』
「人間ってのは、言葉を尽くしただけじゃダメな時もあるのよ。…ギルドの人達は、そこまで頑固じゃないと思うけどさ」
「そもそも吸血鬼相手にしてりゃ、たいてい言葉相手じゃ通じない事が多いからな」
「ま、連絡はしたし、あとは日本支部長の判断待ち。必要とあれば支部長の前で『誓約(ギアス)』の魔法をかけてもらうとかもあるかもね」
双葉はソファに体を預け、ティースタンドにあるお菓子を取って、口の中に放り込む。
『人間って野蛮ね。強い存在を信じず、首輪をつけて飼いならそうなんて』
「人間だからだよ。強い存在に蹂躙されるのを恐れるからそうするんだ。戯れ全部で倒されるのは御免だからな」
『あら、今じゃ清彦はその『強い存在』である事をお忘れ?』
「忘れてねぇよ。だからこの体に馴染もうとしてんだよ」
タチーハの嫌味を込めた言葉を受けながら、俺もお菓子を食べる。
紅茶のお代わりをし、スタンドのお菓子を食べつくしたころ。俺と双葉のスマホに、同時にメールが来た。ギルドからの連絡だ。
「…清彦、行くわよ。日本支部長が呼んでるわ」
「そうか。やっぱりあの人の判断次第になるか」
「場合によっちゃ線香をお供えに行くわ」
「御免だよそんな展開」
64bb99c4 No.785
>現時点での登場人物紹介
中善寺清彦
24歳、男
寺生まれ、YAMA育ち。
兄の予備としても扱われなかったころから荒れていた時期もあるが、双葉との出会いで更生。
吸血鬼タチーハに吸収され、同化する。
普段の主導権は清彦にあるが、まれにタチーハに主導権を取られる。
双葉が好きだが言い出せずにいる。
必殺技:浄化の拳、気弾、密教法具を使用した法術
青森双葉
23歳、女
天然の魔法使い。『艦砲淑女-Lady Cannon-』の2つ名で恐れられている。
有り余る素質と魔力量を用いて、魔力弾による攻撃を得意とする。
タンク(魔力総量)もデカけりゃ蛇口(魔力放出量)もデカい。
討伐に行く際、清彦しか相棒にしないが、さてはて。
必殺技:魔力光弾、連続光弾、魔力パンチ
タチーハ
1000年以上、女
『淫楽』に吸血された吸血鬼。レズ。
吸血鬼の弱点を克服したデイウォーカーであり、死にたがり。
少女の外見をしているが、吸血鬼としての膂力は本物であり、迂闊な近接戦は死を意味する。
必殺技:吸血鬼パンチ、血と影の操作、他吸血鬼の能力いっぱい
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俺と双葉が所属しているハンターズギルドは人間に害となる化け物を処理する裏仕事をするような組織だ、日本ではこの組織についての詳細では表向きで公表等していない。討伐対象は吸血鬼以外にも食屍鬼(グール)、深きものと言った神話生物等と言ったカルト教団が居れば裏で処理とかしている。俺達は汚れ仕事をしながら世界を守っているとは言え、表向きではハンターズギルドが役職として様々な職業を与えられているのだから。運転しているのは双葉で、助手席にはタチーハの姿になっている俺がシートベルトを装着して移動している最中だ。
「清彦、今回の件に関して良いニュースと悪いニュースがあるわ。どっちから聞きたいかしら?」
「どうしたんだ?藪から棒に」
「まぁ、言ってみたのよね。こう言う機会は無いしさ、それでどっちから聞きたい?」
「それなら、悪い方から聞かせてくれないか?」
「悪いニュースね、先ず。清彦がタチーハを討伐させようとした裏で動かしている人物は貴方のお父さんだと解ったわ。要するに吸血鬼のタチーハの手で排除させようとしたと言えば解るかしら?」
その情報を聞いた俺はグッと拳を握りしめた。色々と嫌な予感をしていたのだが、どうやら俺の父親は何らかの手段で排除しようと行動している事は知っていたのだが。まさか化け物をぶつけようとしていたとはな。
「それで、証拠とかはあるのか?」
「貴方のお父さんは不利な証拠とかは厳密に排除しようとしている事は知っているでしょう?予想通り証拠とか残さないようにしているわ」
「……それで良いニュースは一体何だ?」
「良いニュースに関してだけどこれからは私と常に行動出来ると言う事が確約出来たという点ね。私の力は既に知っていると思うから省略するけど。お偉いさんの考えではタチーハが暴走した場合に備えて、私なら確実に始末出来ると言うのが理由よ。」
『予想していたけど、確かに私の全てをぶつけたとしても双葉には絶対に勝てないわ。魔力と言うか桁違い過ぎるのよね。』
タチーハの悔しがる発言を聞きながす俺だが、良いニュースは他にも未だあるみたいだ。
「他には、清彦がタチーハの変身能力を使って女子高へ侵入するみたいな特別な任務があるかも知れないとか、言っていたわね。まぁ、これは受けるか受けないかの任意だから別にどうでも良いわね。そこの女子高はハンターズギルドの美少女が担当しているわけだし」
「成る程な、確かに女子高生とか変身すれば女子高へ転校生として侵入して調査をするというのも一つの手か………おい、何でニヤニヤしているんだ?」
「別に?清彦が女の子の身体で女の園に侵入したいという欲求とかあるんじゃないかと考えたんだけど、本当は受けたいんじゃないの?」
「ちょっと待て!?何でそうなるんだ!?」
車内で双葉とのやり取りで続けていると、どうやらハンターズギルドの本拠地へとたどり着いたようだ。
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「あ、こんにちは」
エントランスに入ると、受付女性の死体を担いだ少年がいた。小学生子役のような容姿が女性の死体を軽々と持ち上げているのはとてもシュールである。
「ありがとうございます、俊明さん」
「いや、お礼を言うのはこちらの方だよ。君たちのおかげでできたことだし」
『ねえ、あの人は一体誰なの?』
双葉が感謝をしている少年についてをタチーハが質問をした。この光景に他のハンターズギルドの従業員が何も関わってきていないから不思議に思うだろう。
「あの人は日本支部の最強エース。和泉俊明さんだ」
『えーあの子供が!』
まあ、俊明さんは成人どころか、中学生にも見えない。けれど、あの人の年齢は
「今年で40になったって言っていたな」
『いや、それなら吸血鬼でしょ』
吸血鬼が吸血鬼と疑うレベルの若すぎる見た目。しかし、俊明さんはDNA検査とかを含めて人間であると判明している。そのため、ハンターズギルドの七不思議扱いされているし、影では『不老』と言われている。
「あ、そうだ。こんにちは清彦くん。それとはじめましてデイウォーカー タチーハ。君たちのおかげでウチにいたスパイを発見できたから、ありがとうね」
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取り敢えずタチーハにとっては初めての相手であるため素直に握手をする。と言ってもタチーハが喋る場合は俺から主導権を握って発言をすれば良いのだが、相手が男だからなのか遠慮はしているそうだ。
「ねぇ、スパイって事は吸血鬼の眷属かしら?」
「ああ、その通りだよ。日本支部でタチーハの存在を知った人物が居てね、主(あるじ)に報告しようとしている所を偶然にも僕が目撃して確保したのは良かったけど、そのスパイは絶望の表情を浮かべながら"灰"になったよ」
吸血鬼には眷属にする事は可能なのだが、不都合な事態が発生した場合は証拠を隠滅する目的として眷属を自害させるような事を繰り返している事を俺は知っているが。
『基本的に吸血鬼の弱点は太陽の光よ、その主は直射日光とか当たっても大丈夫な身体になっているとは言え。眷属を抹消する為に太陽の光を当てても大丈夫なのに、瞬時に切り替えて弱点を晒して自害ねぇ……わたしが言うのも可笑しいけど、相当狂っていると思うわ』
タチーハの素直な感想を聞いていた俺は、日本支部にスパイとして侵入していたと言う事実。これは『淫楽』と何かしら関係があるのでは無いかと考えて居ると。
「あっ、ごめんね。今から僕は用事があるから、支部長は最上階に居るからそこに向かってくれ。双葉、清彦君の事を宜しくお願いするよ。"保護者"としてね?」
「成る程。確かに言われてみれば私は母親で清彦は娘として見られても良いわね、その設定は採用しようかしら。」
「やめてくれないか?幾らなんでも、それは無いだろ!?」
こうして俺と双葉は俊明さんと別れてエレベーターに乗って最上階へとたどり着いた。そこからは豪華な装飾を施した扉を開いたら、そこには日本支部長が居た。
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「よく来てくれたね」
高価な椅子に座っている白髪の男性、乙木支部長は俺を凝視した。俺と支部長は初対面であるが、兄貴達は何度も対面し、関わり合いを持っている。
「失礼いたします。青森双葉です。混合した中善寺清彦並びに吸血鬼タチーハを連れて来ました」
支部長に向かって、俺たちは敬礼をおこなう。すると支部長は何かを確認するように頷き、ゆっくりと立ち上がった。
「中善寺、いや、お兄さんとお父さんと区別するために清彦君と呼ぼう」
支部長はゆったりと足音を出さずに近づいてきた。
「さっそく本題だが、清彦君はその身体をどう思っているのかい」
「ど、どうって」
「すまない。具体性の無い質問をしてしまった。では、もう一度問おう。清彦君は吸血鬼タチーハに対して、同情心を持って接しているのかい」
その質問に対して、一度頭で整理している。俺はタチーハが母親である『淫楽』を殺したがっていることを知っている。しかし、タチーハがなぜ『淫楽』を殺したいのかという理由もタチーハの過去の出来事をまったくと言っていいほど知らない。そもそも俺がこの身体になった原因もタチーハである。ただ、
「わからない、です。ただ、俺は生きたていたいこととハンターを続けたいことは本心です」
「そうか」
支部長が子供の成長を見守る親の顔しているように見えた。
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「では、次に吸血鬼タチーハと話したい。私は魂を感知することができないので、清彦君は吸血鬼タチーハに主導権を譲りなさい」
「はい」
俺はタチーハに身体の操作を明け渡すようにする。すると身体の五感は感じるが全身を拘束されたような感覚になった。おそらく、今はタチーハが主導権を握っているのだろう。
「お待たせしました。タチーハです」
「うむ、では私も名乗ろう。私は国際ハンターズギルド日本支部長である乙木太郎だ」
タチーハに対しては獣と闘う戦士のような顔をした。
「君たちの置かれている立場に関しては国際的に議論が始まっている。ある国の代表は君を討伐しようかと画策し、ある国の代表は君を手懐けるために準備している」
「日本支部長さんはどちらでしょうか?」
「若い頃は、全てを護れる英雄を目指していた。そのためには、護るべき順番や手段、力などが必要となっていった。まだ若者気取りでいたいという意味では私は後者だろう」
支部長の殺気が急激に漏れ出ているのを感じた。
「しかし、君が人を襲わないという確証も君が我々人類を裏切らない根拠も証明されていない。もし、君が我々に噛みつこうとするならば、吸血鬼タチーハ並びに中善寺清彦を討滅し、青森双葉には重い処罰を下す予定だ」
「ちょっと待って。双葉は関係がないでしょ」
そうだ。双葉はあくまで俺とタチーハの監視役であり、俺たちの身体の状態に関しては無関係である。
「我々は味方に害をなす可能性がある物を手元に置かないだけだ」
「脅しているの。吸血鬼である私を」
「そうだ。私は服従、協調を示すために君を呼んだわけではない。国民の安全・安心・無知を護るために脅迫をしている。君を利用するためだけに」
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予想していたが、やはり吸血鬼タチーハの存在はあまりにも存在が強い事は明白だ。国民の安全・安心・無知を護るために脅迫をすると言う事に関しては追及するだろうとは予想していたが。
「予想していたけど、やっぱり人を襲わないという確証が無いと駄目なら。日本支部長が証人となりこの場で『誓約(ギアス)』の魔法をかけると言うのはどうでしょうか?契約の内容は以下の通りです」
そう言うと双葉は懐から『誓約(ギアス)』に必要契約書を支部長に手渡した。その内容に関しては双葉に任せて居るのだが、基本的に国民には一切手を出さないとか全ての権限は双葉に委ねる等。他にも全ての優先権は支部長に委ねるとかの内容だ。抜け道が無いか入念にチェックをしていると。
「素晴らしい契約書だ、私が見る限り抜け道は一切無い。ではこの場に置いて『誓約(ギアス)』の儀式を執行する。タチーハよ、此処の契約書にサインをするように」
支部長がペンを差し出して、タチーハは躊躇いも無くサインをする。『誓約(ギアス)』に制約された文章は絶対に守らなくてはならないのだから、この事実を認識されたのだが。
『本当、双葉はとんだペテン師ね。デイウォーカーである私は『誓約(ギアス)』とか服従されたしても"文字通り無駄"なのに。』
タチーハの独り言は俺と双葉にしか聞こえないのだが、デイウォーカーは『誓約(ギアス)』には一切効かないという事実を知っているのは俺達だけだ。
もし、万が一の可能性として。
サバイバーギルドが"吸血鬼タチーハ、中善寺清彦、青森双葉"を排除する動きが見受けられた場合は裏切る事も視野に入れている。双葉は俺がサバイバーギルドを抜け出すのなら一緒に付いていくとか言っているし、何故かタチーハも意気投合しているのだから。
「今後は私が吸血鬼タチーハの監視下に置きます。何かしら、不自然な行動があれば報告をしますので」
「無論、それは理解して居る。今後は2人で行動するのは認めるのだが万が一離れる場合に備えて、"此方から新たに監視員を1人派遣する"。」
そう言うと支部長は1冊のクリアファイルを取り出して、双葉に差し出した。その内容を見ると双葉の口元はほんの一瞬"緩めた"後。
(清彦、支部長から此方に派遣する人物は私の大親友だから安心して。)
と、アイコンタクトで俺に伝えてくれた。無論、その行為は支部長にとってはそんなやり取りをしたとしても一切気付かない。その間僅か1秒弱。
「それで、その人物は一体誰なのかしら?」
「日本支部の女性の中では最強エースと言っておこう、清彦君にとっては初対面だがな。特徴があるとすれば"情報収集"に優れており、サバイバーギルドの裏切り者を確実に報告する優秀な人材の一人だ。」
タチーハはどんな人物なのか双葉がクリアファイルを読み終えたのか、テーブルの前に資料を置いた。一つ言えることがあるとしたら、その人物は双葉と同様に容貌が美しいと言う事だった。
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「さっそくだが、君達の力を利用させてもらおうか」
支部長は別のクリアファイルを取り出して、タチーハに渡してきた。クリアファイルの中には、とある吸血鬼の情報がびっしりと書かれている。
「一週間後にそいつを討伐しろ」
命令口調の支部長は俺たちに期待の眼差しを送った。これも予想通りであったが、
「一週間も期間をくれるの」
タチーハが言うように、俺たちの野放し期間が想像以上に長い。さっそく現地に送られると思っていた俺たちは面を喰らった。
「そうだ。今回の討伐命令は吸血鬼タチーハの利用反対派の意見を無視しておこなうことになる。私としては今すぐに行ってほしいと思っている。しかし、君の監視役はまだ別の任務を遂行している最中である。なので、この一週間は彼女の日程に併せた休暇と思ってもらえればいい」
「ふーん、そうなのね」
「それともあれか。同族同士の戦いはしたくないのか」
「いえ、それはどうでもいいわ。殺したい相手も同族だから」
「ならば、健闘を祈る」
そして、俺たちは一礼をして、部屋を出た。部屋を出る時に身体の自由が戻っていき、身体の主導権は再び俺になっていた。
「お、話し合い終わった?」
エレベーターの側には俊明さんが立っていた。
「「お疲れ様です」」
俺と双葉は挨拶をもう一度おこなった。
すれ違う時、俊明さんは俺に耳打ちで「乙木支部長は正義のペテン師の才能あるよね」と呟いた。
俺は俊明さんの方を振り向いたが、豪華な扉の閉まる場面しか確認できなかったため、仕方なくエレベーターに乗った。。
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「なぁ、双葉。俺は嫌な予感がするんだけど。もしかすると俊明さんと敵対になる可能性とかあったりしないか?」
「んー、そうね。一つだけ断言出来る事があるわ、決定的な事が出来事がね」
双葉の中では俊明さんの行動に関しては一人で納得しているのだが、もしかするとデイウォーカーは『誓約(ギアス)』には一切効かないと言う事実を知っている可能性があるのでは?
「清彦。その予想なんだけど、見抜いている可能性があるかもしれない。だからこう考えなさい。この情報を支部長に伝わればサバイバーギルドから一切関係を打ち切って逃亡生活をする。報告されなかった場合は現状維持、とね。」
『誓約(ギアス)はデイウォーカーに対しては一切縛られないけど、私は目的さえ達成すればそれで良いわ。今のところ、清彦と双葉さえ守れば良いと思っているんだしね』
こうして俺達はエレベーター内で会話をしていると1Fへ辿り着いた様だ。双葉がスマホを取り出した、どうやら誰かと連絡を取っている様だ。その相手は恐らく支部長が派遣する"彼女"と幾つかやり取りをしているだろうと予想出来た。
「清彦、悪いけど女子寮へ行くわ。私の部屋に重要な荷物を取りに行きたいから、着いてきて」
「女子寮って、サバイバーギルドに所属している彼処だろ?俺はそもそも……」
「その点は安心しなさい、男子寮で住んでいる清彦の荷物は私の部屋に運び込まれているから。監視役として清彦を見張る必要があるのだから当然でしょう?今後はタチーハの身体を慣らす為に、女の子の身体で生活すること、良いわね?」
双葉は俺を見てニヤニヤと悪戯をする様な表情を浮かべていた、女の園へ侵入したいんじゃないかと言う趣向も含めている感じがするのだが、俺は人生で初めて女子寮へと向かう事になった。
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女子寮へと向かっている最中、運転しているのは双葉で、助手席にはタチーハの姿になっている俺が居るのはあまり変わり無いのだが。
「なぁ、双葉。これから俺達を監視する人物の名前は一体誰なんだ?」
「久遠寺愛羽(くおんじあいば)、私の大親友にして共犯者、魔術における先生よ。日本支部の女性の中では最強エースだと言われているけど、アイツは人間嫌いだから。裏で行動している事が多いから基本的に女子寮で過ごしているわ」
『基本的に女子寮で過ごすって事は外出とかしないって事?』
「様々な情報を得る為に魔術を使っているのもあるし、外部に漏らさないようにしているのが理由ね。アイツの連絡先を知っているのは上位に居る人しか限られていないけど、私だけ"プライベート用"の連絡先を知っているわ」
久遠寺愛羽について基本的な情報を双葉から教えられている最中、愛羽の意見によれば今後は俺達を監視する為に一緒に行動するのは好都合と言っていた。その理由に関しては向こうへ付いてから語ると言っていたのだが、俺は吸血鬼タチーハを観察出来るからと言う好奇心の理由だと予想した。そもそも、デイウォーカーと言うのは吸血鬼の中ではあまりにも貴重過ぎる種族であり、魔術関連的な意味でも一緒に付いていくと言うのは動機として充分過ぎる物だと予想出来た。
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車はしばらくして高級なマンションの地下駐車場に入っていった。そう、このお高い建物こそが日本支部のギルドの所有する女子寮である。ちなみに男子寮はここまで豪華なものではなく、家賃月間八万以下で住めるようなアパートである。
「着いたわよ」
双葉は車内から外に出る。俺も慌ててシートベルトを外して車外に出た。
実は緊張と興奮をしていた。そうここは女子寮であり、男性侵入禁止エリアでもある。噂では、宅配便のやりとりをマンションの敷地外でおこなわれていると聞いた。
俺は深呼吸をした。ちなみにこの深呼吸は気分を落ち着かせるためにしている。やましい気持ちは決してない。
『あら、空気がきれいね』
「あ、クリーンキーパーさん達が毎日このマンションを隅々までを掃除してくれているの」
残酷な情報を知った俺は色々な悲しみに囚われた。く、女子のいい香りもしない無味無臭であることだけではなく、清掃業者を雇っているだと。男子寮は大家さん(65歳女性)が週一回、階段周りを掃除してくれるだけなのに。
「何しているの清彦」
『さあ、わからないけど嫉妬を感じるわ』
気を取り直すまでに1分はかかった。
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実際に男性侵入禁止エリアへ入る事に対して性的に興奮するのはもはや仕方が無い。男の身体だったら間違いなく彼処が目立って双葉に色々と言われていた所なんだけど。
『やっぱり興奮をしちゃうんだ?女の子の身体だからって、彼処は反応するのは予想出来たけど。私が居なかったら身体全体が敏感になっていたわ』
「清彦、タチーハに感謝しなさいよ?えっちな事を考えるのは予想していたけど」
タチーハが興奮していると双葉にわざわざ教えたりしているのは公開処刑に近い、この時点で俺は社会的に抹消されんじゃないかと思ったが。双葉は平然としていたのだから。
「し、仕方が無いだろう!?だって、まさかこんな形に入るとは思わなかったからさ」
「まっ、いずれにせよ女体の身体を慣れてもらわないと私が一番困るのよね。一応性欲を発散したいのなら私で良いわよ?愛羽も研究とかの為なら躊躇いもなく身体とか捧げると思うし」
「なぁ、一線を越えても良いのか?それをしたら、取り返しの付かない事になるんだが」
「女同士なんだしセーフよ、セーフ。異性とやる場合は流石に遠慮するわよ?」
双葉がとんでもない爆弾発言をしていたが、俺は敢えてスルーをした。今日から此処にお世話になるのだから、気を引き締めて行かないとな。
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タチーハのおかげでスケベ心は発生させずに、双葉の住む部屋のフロアに着いた。幸運なことに道中は誰ともすれ違わずにすんだ。
「あれが私の部屋よ…」
双葉は自身の部屋を指差していたが、声は少し困惑していった。
それは双葉の部屋の前に、俺の荷物が入ったダンボールと一緒に茶色く獰猛そうな着ぐるみが立っていたからだろう。
「『くまだ!!!』」
俺とタチーハの叫びがシンクロした。
「あれ、管理人さん」
「こんにちは、双葉さん。そちらの方はどうもはじめましてですね」
熊の着ぐるみから淡々とした少女の声が出て、熊の着ぐるみは丁寧にお辞儀をした。
「やっぱ、最初はみんな驚くよね。彼女はこの女子寮の管理人さんよ」
「はい、自分は大阪本場(おおさかほんば)です。よろしくお願いします」
「お、俺は中善寺清彦だ。ええーと、よろしく」
『私はタチーハよ。よろしく』
「はい、中善寺さん」
俺は熊の着ぐるみもとい本場さんと握手をした。手で触るとクッションと同じ柔らかさを感じた。あと、本場さんにはタチーハの声は聞こえないらしい。
本場さんの服装?が気になったので、質問してみる。
「ちなみに、どうして着ぐるみをきているんですか」
「自分の肉体は四肢がないため、これがパワードスーツの役割を果たしてくれているのです」
着ぐるみの件はもう触れないようにしておこう。
「管理人さん、どうして私の部屋の前に」
「それは支部長からの命令をお二人に伝えたかったからです」
『あのおっさんからの命令ね』
本場さんの言葉にタチーハがダルそうに反応する。でも、命令をするなら本部にいた時でもいいような気がする。
「一つは、本日はもうこの女子寮から一歩も外へ出ていってはいけないことです」
「それって、ギルド内に潜んでいたスパイがしっぽを出したことと関係あるの?」
「スパイの有無については知りませんけど、たぶんそうでしょう」
たしか、スパイはタチーハが日本支部を訪れる近くのタイミングで発見されたんだ。背後には吸血鬼が関わっているのと何が目的かわからないことを考えたら、むやみやたらに外出する必要はないな。
「もう一つは、支部長の許可が出るまで、中善寺の本家とは接触又は面会しないことです。特に青森さんとタチーハ様は暴力沙汰を起こしてしまうため、一言も会話しないようにしてほしいとのことです」
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「いや、双葉はそんなことを流石にしません。だよな」
俺は支部長の予想に反論しつつ、必死で双葉に同意を求めた。が、俺は双葉の顔を見ると露骨な態度で目を逸らされた。
「なあ、忘れ物って」
「別に殺傷能力はないと思うよ、たぶん。懲らしめることを目的とした武器が忘れ物だし。それに中善寺家で一度御礼参りもしたかっただけだからね、ね」
俺は双葉が次に行く予定の場所がどこなのかわかったが、叱る気になれなかった。それは俺の感情の代わりに双葉が行動しようとしてくれたのだろう。
俺は空気に紛れ込むように小さくありがとうと呟いた。それと見えないはずのタチーハがニヤニヤしていると感じた。
本場さんは連絡を伝えたら、すぐに立ち去っていった。そして、俺たちは双葉の家のリビングにいる。初めて訪れたが簡素で綺麗に片付いているなと思った。
広さはマンションであるため2LDKらしい。通常、女子寮の女性ハンターはこの一部屋?に2〜4人で住むらしいが、双葉と二人で相部屋だったもう一人の女性ハンター(数回共同で任務をしたことがある)は二ヶ月前に結婚して出ていった。彼女は現在、前線から身を引いて事務員として活躍している。
そのため、これからは双葉と(タチーハを除くと)二人きりで暮らしていくことになる。
ただいま、それを意識してしまって緊張してきた。そうだ素数を数えよう。1、2、3、5、7……….
『(助け舟を出しておこうかしら)』
「何か言ったのタチーハ?」
俺には脳内で伝わったが、双葉には聞こえなかったらしい。けど、タチーハが俺の緊張をほぐしてくれるのはとてもありがたいことだ。
『私、お風呂に入りたいわ』
「え!」
予想外のお助けボールに思わず俺は声を漏らす。
「あれ、吸血鬼はお風呂が必要だっけ?」
『お風呂を使わなくても身体は綺麗に保てるわ。けれど、娯楽として数百年ぶりに楽しみたいのよ』
「ちょっと待って。いまから沸かすわ」
『これからお世話になるから、今回は私が沸かすわ』
「でも、勝手が違うでしょ」
『困ったら、清彦にやらせるわ』
「俺頼みかよ」
『あ、それと双葉には買い物をお願いしたいわ。寝る前に紅茶が飲みたいの』
「紅茶なら、
『それとお風呂に入っている時、他にも色々と買ってきて欲しいの。なるべく時間をかけて』
双葉はタチーハの謎の要求を聞くと、全てを理解した手の叩き方を実践し、笑顔になった。
「わかったわ。服とか、下着とか、寝る時に必要なものとか、いろいろ、買ってきて上げる。五時間以内には帰ってくるわ」
『ありがとう。やっぱり、双葉は親切ね』
何故か思念と声だけでの会話なのに、双葉とタチーハがアイコンタクトをおこなっているように感じた。
俺は双葉が銀行通帳を片手にドアの外へ向かうまで身体が動かせなかった。
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「なぁ、タチーハ。一体どう言うつもりなんだ?お風呂に入りたいって」
『入りたいのは本気だけど、清彦には色々と女の子の身体とか慣れて欲しいと言うのが本音よ。双葉は居ないんだから一人で好き勝手出来るでしょう?自慰行為とかしたいのから今のうちにに』
「ちょっと待て!?俺はそんな事なんて考えては……ッ!?」
次の瞬間、いきなりキュンと下半身が疼く様な現象を感じてしまった。徐々に身体全体が火照っていき、胸の先端にある突起物も目立つ様に勃起しているのを間近に目撃してしまう。
『性的興奮を抑えているのは私の力に寄る物よ?それが無くなれば……もう、知っているわよね。安心して、もし一人でやりたいのなら私は勝手に眠ったりして』
「ま、待ってくれ。ど、どうして、彼処がキュンってするんだ……興奮しても平気だったんじゃ…ッ!」
『へぇ、もしかして。清彦、本気で"女性の身体"に関する知識が無いの??』
タチーハは何故か凄く喜んでいた、そう言えばレズだとか言っていたな。女性の身体に関する知識はあるとは言え。今まで性的興奮しても何も感じなかったせいで、いきなり身体が火照ったりしているから、思考が色々とおかしくなってしまいそうだ!
『まっ、一旦。性的興奮を鎮めてあげるわ、このまま行けば清彦が壊れそうだし』
そう言うと俺の身体があっという間に熱が引いて正常な身体へと戻ったのだが。どうやら何時でもタチーハが俺の身体に性的興奮の状態に陥ることが出来ると言う事実は出来れば知りたくなかった…!
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『それじゃあ、さっそくやっていくわよ』
風呂を綺麗にして(全部俺がやった)、自動のスイッチを入れた後、タチーハが俺から顔から下の肉体操作の主導権を奪った。
「おい、何で体の主導権を奪うんだよ!」
『だって清彦がここまで初心だとわ思っていなかったから。だったら私が手取り足取り女の快感を清彦に教えてあげようかなと』
「別に抑えられるんだから必要ないだろ!」
『いいえ、これは必要なことよ』
タチーハの脳内トーンが真面目になる。
『これには三つほど理由があるの。一つ目は性的興奮は私が抑えていることよ』
「それは問題ないだろ」
『いえ、私がやっているのは性的興奮を溜めているのよ、ダムみたいにね。だから私が抑えきれないくらいに溜まった場合は、決壊して一斉に清彦に性的興奮が伝わるわ』
「それってつまり、さっきみたいな状況が起きるってことなのか!」
『それよりも酷くて、廃人確定みたいな状況に陥るわ』
「大問題じゃねえか」
『そうよ。それと二つ目は「淫楽」に勝つために快楽と寄り添っていく練習よ』
「なぜオナニーが『淫楽』対策の練習になるんだよ。タチーハの体だからそういった耐性はありそうだが」
『アレは周囲を発情させる匂いを常時出しているの。私は常時出している方には耐性があるんだけど、あいつは本気を出すと魂ごと発情させるオーラが出せるの。そうなった場合、今のあなたならメス顔を曝け出し、お尻で白旗を激しく振るわ』
「それについては対策必須だな」
『でしょ。最後の一つは私たちの血族が関係しているのだけれど、』
「少し歯切れが悪いな」
『私の一族は性的興奮を発散させることによって、力を溜めることができるの』
「何だか変態だな」
『でしょ!もちろん吸血しても力を溜めることができるのよ。けれども、あんなのが私の母親で血が繋がっているからしょうがないじゃない!』
その時、俺は親ガチャという言葉を思い出した。子供は親を選べることができず、親の都合によって子供の選べる選択が変わってしまう。そのため、子供の不自由な気持ちは親に対して当たり外れを付けざるおえなかった。俺は自分が産まれた頃に死別してしまった母親、兄ばかり依怙贔屓する父親の二人であったため、他の人の両親が羨ましかったし、とても寂しい思いを感じていた。タチーハは俺の何十倍もの孤独だっただろう。
「わかった。俺は初めてだからタチーハに任せよう」
俺は優しく宥めるように許可を出したのに対して、
『了解。清彦の蕩けていく顔が楽しみだわ』
俺の同情心を返して欲しいくらいの明るさへとシフトチェンジした。