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/futaba/ - ふたば板κ

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640f0c06 No.23

175303ca No.29

#リハビリ兼リニューアル祝いということで
「ただいま~。あ~、今日も疲れた~」
夜遅く、大学生の向井 双葉はバイトを終えて自宅に帰ってきた。
彼女は今年で大学2年生、私立大学の文学部に通っている。
「おかえり~」
そして、そんな彼女を出迎える1人の女性。
彼女は向井 青葉。双葉の姉で、今は社会人だ。
双葉の大学進学を機に、2人は青葉のマンションに暮らしている。
「今日も暑かったね。早くシャワー浴びてきな」
そう言いながら、青葉は手元のグラスにビールを注ぐ。
ソファーに座りながら録りためたドラマを観ているようだ。
「お言葉に甘えさせてもらうわ。もう汗だく~」
手で顔を仰ぎながら浴室に歩いていく双葉。

175303ca No.30

結んだ茶髪をほどき、服を脱いだ彼女は、早速風呂場に入って汗ばんだ身体を流そうと蛇口を捻った。
しかし、シャワーヘッドから水は一滴も出てこない。
「……あれ?故障かな。お姉ちゃん何も言ってなかったけど」
蛇口を閉めてもう一度捻るが、結果は変わらない。
姉に相談しようと考えながら浴室から出ようとする双葉の背後から、ぴとんと液体の滴る音が響く。
復活したのかと彼女が淡い期待を抱きながら振り向と、シャワーヘッドから勢いよく銀色の液体が噴き出した。
咄嗟の事に反応出来ず、双葉は頭から液体を浴びてしまった。
金属のようなその液体は、意思を持っているかのように蠢き、広がり始める。
纏わりつくそれを必死に引きはがしながら姉に助けを呼ぼうとする双葉だったが、なぜか声が出ない。

175303ca No.31

代わりに大きな音を立てて報せようと考えたところで急に身体から力が抜けた彼女は、足元でできた銀色の水溜りに膝をつく。
鏡に目を向けた双葉は、完全に液体に覆われた左腕がみるみると形を崩し、足元にびしゃびしゃと零れていくのを目の当たりにした。
ーーー液体が触れた場所から、自分の身体が侵食されている。
その事実に気づいた双葉は恐怖で顔を引きつらせるが、もう遅い。
膝から脚へ、太ももへと液体は飲み込んでいき、ついに片足を溶かしてしまう。
バランスを崩して水たまりに倒れ込んだ双葉は、もはや痛みも感じることができなかった。
少しずつ自分が失われていく恐怖に涙する彼女の顔に、無常にも液体が這い上っていく。

175303ca No.32

口や鼻から侵入した液体は、双葉の体内へと流れ込んでいく。
やがて、彼女の全身はすっかり溶けて液体と混ざり合い、銀色の水たまりに同化した。
しばらくすると、水たまりは少しずつ盛り上がり、マネキンのような人型を形成していく。
のっぺらぼうの頭に髪の毛や目鼻といったパーツが形作られる。
胴体や四肢は次第に丸みを帯びていき、膨らむべきところを膨らませながら絞るべきところを絞っていく。
出来上がった姿は、全身が銀色である点を除けば双葉と瓜二つだった。
ゆっくりと目を開けたそれは、動きを確認するように手を握ったり開いたりすると、にやりと口元を歪める。
「ようやく戻れた……人間の姿に…!」

175303ca No.33

田中 清彦が『行方不明』になったのは数週間前のことだった。
彼はごく平凡な中年男性だったが、突如メタリックなスライムになる能力に覚醒した。
だが、スライムと化した身体の動かし方が分からなかったので、下水道に流れ落ちてしまったのだ。
どうにかスライム体の操作法を身に着けることで下水道から脱出できたが、清彦は元の自分の姿に戻ることが出来なかった。
ただ、希望はあった。メタリックなスライムの持つ同化能力、そして変身能力だ。
下水道をさまよっていた際、偶然ネズミと接触したことで気づいた同化能力。
そして、同化によって手に入れた情報を再現する変身能力。
ーーーこれらの能力を使えば、少なくとも人間には戻れるのではないか。

175303ca No.34

そう考えて清彦は賭けに出たーーー誰かに飲まれたりすることを期待して、上水道に侵入したのだ。
そして、不幸にもスライム化した清彦を浴びてしまったことで、双葉は清彦に吸収されてしまったのだった。

「しかし俺が女になっちまうとはな。だがおっぱいもでけぇし、俺の運も捨てたもんじゃねえみたいだ」
下から乳房を持ち上げて揉みしだきながら、双葉の姿で清彦は呟く。
だが現在の姿は、あくまで同化した双葉の外観を再現したものに過ぎない。
「感覚もないんじゃあ面白くねぇな。じゃあ次は生体情報を再現して……」
清彦が目を閉じ集中すると、銀色だった肌が次第に肌色に、髪の毛が根本から黒く染まっていく。
同化した際に入手した遺伝子情報をもとに、向井 双葉の肉体を再現しているのだ。

175303ca No.35

そこにはもはやスライムだった名残はなく、変身能力で完璧に複製された双葉の姿があった。
「…ふ……ふふ………人間の感覚だ……俺はやっと…人間に……」

清彦は自分を抱きしめる、自分に触れる感覚と触れられる感覚を味わう。
風呂場に漂う香り、換気扇の音、人間としての五感を久々に噛みしめる。
それから清彦は、鏡に映った身体の隅々まで見て楽しむ。
大きく盛り上がった乳房、むっちりと肉付きのいい太もも、撫でまわしたくなるようなすべすべの腹部。
清彦の興奮が双葉の乳首を固く尖らせ、茂みの向こうの蜜壺をじゅん、と湿らす。
「下腹部が熱い…おまんこが切ないっていうのはこういうことなのか……」

175303ca No.36

陰毛を吸収してパイパンにした清彦は、左手で乳房を揉みしだきながら、右手で股間を弄り始める。
陰唇やクリトリスを指でなぞる度に甘い快感が双葉の脳に走る。
女性の肉体になって、女性の快楽を、女性の脳みそで感じるーーーそんな倒錯的な状況が清彦の興奮を高める。
しかしそれでもまだ物足りないのか、清彦はさらに激しく指を動かし続ける。
くちゅくちゅという水音は次第に大きくなり始め、愛液で濡れた右手は太ももにまで垂れ始めた。
そしてついに絶頂を迎えた清彦は、身体をのけぞらせて大きく痙攣した。
(これが女の絶頂か……射精よりもすげえや……)
しばらく余韻に浸っていた清彦だったが、シャワーで身体を流すことにした。

175303ca No.37

「だがその前に、この嬢ちゃんの記憶もいただくとするか」
清彦は再び目を閉じると、双葉の脳を完全再現するとともに隅々まで意識を行きわたらせる。
物心ついたばかりの幼稚園での記憶を、初恋をした小学校での記憶を、部活に励んだ中学校での記憶を。
行事に一生懸命だった高校での記憶を、そして大学に入ってからの記憶を。
彼女が体験し、感じたすべてを読み取りながら、記憶を元に外見も補正し、髪を茶色く染めていく。
目を開けたその表情は、本来の双葉と全く同じほほ笑みだった。
「……ふーん、『私』は双葉って言うんだ」
彼女が過ごしてきた人生を喰らうことで、清彦は彼女の人格すら再現するに至ったのだ。

175303ca No.38

「♪~」
双葉の習慣をなぞり、彼女がしているように身体を洗い終えた清彦は、上機嫌に鼻歌を歌いながら浴室を出た。
そしてバスタオルで身体を拭き、髪をドライヤーで乾かし、下着を着るとパジャマに着替える。
リビングに向かうと、青葉(あね)から声を掛けられる。
「ずいぶん長風呂だったね」
「うん、ちょっとウトウトしちゃって」
妹を一瞥すると、彼女の意識は再びドラマへと戻る。
入浴中に妹が別人に成り代わっているとは、全く気付いていない様子だ。
当然だ、もはや清彦は双葉そのものなのだから。
挨拶をして早々に寝室に引き上げた清彦は、双葉のベッドに飛び込む。
枕に顔を埋め2,3度深く深呼吸するが、柔軟剤以外に特段匂いは感じない。

175303ca No.39

当たり前だ、自分の体臭を嗅ぎ分けられる人間はそういないのだから。
清彦が仰向けになって天井を見上げているとスマホが鳴る。
指紋認証でロックを解除できることを、清彦(わたし)は双葉(わたし)だと証明しているようでうれしく思いながら清彦が通知を確認すると、それは双葉の彼氏からの「話したい」という短いメッセージだった。
清彦はいいよ、と打ち込んで送信したあと、電話をかける。
それから2人は、『いつも通り』他愛もない会話に興じ、最後にデートの約束をして通話を終えた。
電話が終わるまで、彼氏は相手が彼女を食らった化け物とはつゆほども考えていない様子だった。
清彦は再び仰向けに寝転がり、部屋の空気を胸いっぱいに吸い込む。

175303ca No.40

(スライムになっちゃったときは人生の終わりだと思ったけど、おかげでこんなに若くて健康で美しい身体になれるなんてね)
もはや清彦としての人生に未練はなかった。
むしろ、双葉として味わう生活が自身にとっての日常になっていくのが楽しみで仕方がなかった。
(この肉体も、この記憶も、これからの人生も……すべて俺の…いや、『私』のものだ)
確かに向井 双葉は田中 清彦によって同化され、この世から消え去った。
だが双葉の外観を持ち、双葉の遺伝子を持ち、そして双葉の人格を持つナニカがいるのであれば。
果たして本当に消えたものは何なのだろうか。
眠りに落ちる前、双葉に成り代わったバケモノは、愛おしげに自分を抱きながらつぶやいた。

「これからもよろしくね、向井 双葉(わたし)」



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