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/tachiha/ - たちは板κ

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0aa75dc6 No.914

「く、クソォッ……!」
「さあ、もう逃げ場はありませんよ。街を混乱に陥れた罪、その命をもって償ってもらいますから」

街外れにある埠頭で、とある少女と異形の生物が対峙していた。
魔法使いのローブのようなコスチュームを身に纏ったその少女の名はアオバ。普段は平凡な女子高生として暮らしながらも、その裏では悪の組織を相手に戦いを繰り広げている魔法少女である。
一方の異形こそが、悪の組織の手先である『怪人』と呼ばれる存在だった。怪人は魔法少女への対抗手段として生み出された改造人間で、彼女たちが使う不可思議で強力な力である『魔法』を模して造られた特殊な能力を組み込まれているのだ。
アオバが向かい合っている怪人が持つ能力は『入れ替わり』で、左右の手から放った光線に当たった者同士の魂を入れ替えてしまうというものだった。
その能力で市街地にいる一般人を無差別に入れ替え、騒ぎにおびき寄せられた魔法少女を部下の戦闘員と入れ替えることで戦力を増強するのが今回の作戦だったのだが――

「い、いいのか?俺を殺せば街にいる奴らは二度と元に戻れなくなっちまうんだぜ?」
「随分と安い命乞いをするんですね。魔法少女に倒された怪人はその能力を秘めた魔道具へと変わる、知らないわけがないでしょう?あなたが起こした不始末はあなた自身の能力で解決してあげますから、大人しく――」
「うるせえ!!」

淡々と語るアオバに向けて、怪人は右手から勢いよく光線を放つ。左手の光線は事前に部下の戦闘員へ放っていたため、後はアオバに一度でも光線を当てるだけだった。
しかしその攻撃がアオバに触れることは無く、ただ空を切るだけの結果に終わってしまう。光線よりも更に疾い速度で、彼女は怪人と一定の距離を保ったまま容易く回避してみせたのだ。
そのコスチュームはいつの間にか身軽そうな意匠の物に変わっていたが、たなびいていた髪が元に戻るのと同時に全身がキラキラとした光に包まれ、その服装は先ほどのローブのような露出の少ない物へと戻っていく。
このコスチュームの変化こそが、彼女が戦闘の要としている固有魔法だった。着用者の意思を反映し、その姿と性能を変えることであらゆる相手に対応する魔法。
アオバは攻撃を避ける為のスピード特化の形態から瞬時に切り替え、高い魔力を扱うことのできる形態へと変わる。厄介な能力を持つ怪人に万が一にでも不覚を取らぬよう、一撃でその命を屠るために。

「ひっ……!?ひ、卑怯だぞぉっ!?俺ら怪人は一つしか能力を持たされてねえってのに、強そうな能力ばっか何個も使いやがって……!」
「卑怯?ふふっ、部下を盾にして逃げ回るだけだったあなたにだけは言われたくない言葉ですね。けれど、盾となる部下はもういない。そろそろ終わりにするつもりですが、構いませんね?」

アオバの背後には、黒い全身タイツに身を包んだ戦闘員が何人も倒れていた。とは言っても、彼らは誰一人として命を落としていない。
自ら志願して組織に下った一部の人間以外の戦闘員は、洗脳装置で操られているだけの一般人が大半なのだ。
それでも、魔法によって気絶させられた彼らが目を開けることはないだろう。――少なくとも、彼らを操っていた怪人が倒されるまでの数分の間は。

「わ、分かった!俺が入れ替えた奴らは全員元に戻すし、組織も裏切ってお前の奴隷にでもなんでもなってやるから!なあ!た、頼むから命だけは――」

言い終る前に、彼はアオバが放った巨大な光球の中に呑み込まれてしまった。怪人が持つ邪悪な力とは正反対の性質を持つエネルギーによってその肉体が浄化されていく。
やがて周囲の暗がりを照らすほどのその光がようやく収まると、怪人が居たはずのその場所には宝玉のついたブローチのような物が転がっていた。
アオバは怪人の成れの果てである魔道具を拾い上げると、一仕事を終えたように安堵の息をつく。

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「とりあえずはこれで一件落着ですね。後はこの魔道具を使って被害を受けた皆さんを元に戻してあげるだけ、ですが……何人いるんだろう。もしかしたらこっちの方が大変になるかも……」
「へ、へへへ……。やっと捕まえたぜ……」

思考を巡らせているアオバの足元から、不意にかすれたような男の声が聞こえてくる。ちらりと視線を下に向けると、そこには這いつくばりながらも彼女の足首を掴んでいる戦闘員の姿があった。
戦闘員の大半は洗脳されただけの操り人形だが、彼はその内の例外で自ら志願した内の一人だった。
それ故に彼は怪人が倒された後でも魔法少女への敵意を……というよりは、『自分が入れ替わる相手である美少女』への執着を向けていたのだが、アオバはそんな彼を見て呆れたようにため息を吐く。

「あなたは……洗脳された様子が無いようですし、組織に自ら志願した人ですよね。見たところもう随分と良い歳をしたおじさんみたいですけど、そんなことをしてて恥ずかしくないんですか?」
「へへ……そうやって馬鹿にしてられるのも今のうちだからな……。怪人様の手でお前がそのおっさんに……ぜぇっ、今からなっちまうんだよ……!そしてお前のカラダは、そのエロい美少女のカラダは俺の物に……ぐひっ、ぐひひひっ♡」
「えっと……言いにくいのですが、その怪人ならもう倒してしまいましたよ?」
「…………は?」

アオバのその一言に、戦闘員は間の抜けた声を漏らす。そして彼女が持っているブローチが目に入り、数秒の間をおいてからようやくその意味を理解したのか、彼は顔を真っ青にして震え始めた。

「や、やめろ!殺さないでくれぇ……!お、俺はただ命令されて仕方なくやってただけで……!」
「はぁ……殺したりなんてしませんよ。魔法少女を一体何だと思っているんですか?」
「へ?じゃ、じゃあ見逃してくれたりとか……」
「それは出来かねますね。あなたは自らの意思で悪の組織の構成員になったわけですから、その罪は司法の下でしっかりと償ってもらいます。もっとも、その前に私の味方から尋問を受けることになるかとは思いますが……って、まだ逃げるだけの元気は残っていたんですね」

アオバの言葉を聞き終える前に、男は立ち上がると一目散にその場から逃げ出そうとした。
しかし、やはり戦闘による疲労と気絶させられたことによるダメージが大きかったのだろう。男はでっぷりと膨らんだ腹を揺らしながらどすどすと走るが、すぐに足をもつれさせて転んでしまう。
それでも何とか逃げ延びようと手足を必死にばたつかせる哀れな中年男を憐れむような視線を向けながら、アオバはゆっくりと近づいていった。

「く、くそっ、チキショウ!ガキの癖に見下しやがって……!」
「ええ、見下していますよ。それが嫌なら罪を償って更生して、どうぞ尊敬されるようなまともな大人にでもなってください」

冷たい調子で言い放つと、アオバは男を気絶させる魔法を使う構えを取った。前方に突き出したその手に魔力が収束していき――同時に、右手で持っていたブローチが突然熱と光を放ち始める。

「なっ……ど、どうして魔道具が勝手に!?まさか暴走を……!?」

『入れ替わり』の力を持つ怪人は既に倒されていたが、彼の能力は不完全な状態で発動が続いていた。事前に戦闘員へのマーキングをしていたその能力は、その相手となる魂が選ばれることを待ちながら燻り続けていたのだ。
それは彼が魔道具と化した後も変わらずに残り、アオバが使おうとした魔力に呼応してとうとう発動の契機を得る。
魔道具は一際強い輝きを放ち、辺り一面を照らすほどの光に包まれたアオバの意識はその光に少しずつ引き剥がされていった。

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「う、うぅ……」

それからしばらく経った頃、アオバはようやく目を覚ました。
日暮れ寸前だった空は既にとっぷりと日が落ちて暗くなり、街灯の明かりだけがぼんやりと当たりを照らしている。
周囲には黒い全身タイツを身に付けた男たちが何人も転がっており、彼女は自分がさっきまで彼らと戦っていたことをじわじわと思い出し始めていた。

「あれ……?私、ちゃんと怪人を倒せたんでしたっけ……?うぅ……頭がぼんやりしてよく思い出せない……。いったい何が……きゃぁ゛っ!?」

普段の十分の一程にも回らない頭に手を当てた瞬間、アオバは野太い悲鳴をあげる。背中まで伸びているはずの艶やかな長髪がどこにもなく、代わりに薄く脂ぎった髪の毛が生えているだけのベタつくような頭皮の感触が手についたのだ。
慌てて手を離すと、今度はその手に視線が向いていく。アオバの目に映ったのは色白で細くしなやかな手ではなく、黒いタイツに覆われているパンパンに膨れた太い手指だった。

「そんな、嘘……!?どうして私が……そんな……!?いやっ……!」

そう呟く声も低く醜い男のような声へと変わっていて、そんな自分の声に絶望しながらもアオバは自らの身体を確かめるように触っていく。
密かに自慢だった大きさを誇る乳房は、太った男の胸としか形容ができない潰れた脂肪の塊に。モデルのようにきゅっと引き締まっていたウエストは、だらしない贅肉が積み上がっている三段腹に。
変わり果てた『自分の身体』は全身が黒いタイツのようなもので覆われていて……でっぷりと膨れた腹で遮られて見えなかった股間に手が触れた瞬間に彼女は――『彼』は、聞くに堪えない醜い絶叫を響かせていた。

「い゛や゛あああぁあああっっ!!!?な、なんで、どうして私が戦闘員に……!?お、男の人の身体になって……っ!!?」
「お、ようやく目が覚めたのか。起きるのが遅かったから先に色々と愉しませてもらったぜ?」

すると背後から透き通るような女性の声が聞こえ、振り向いた彼はその姿を見て固まってしまった。
そこに居たのは、彼がよく知る人物だったのだ。
鮮やかな水色の長髪。大胆に露出している大きく形の良い乳房に、それに合わせて抜群のボディラインを形成している引き締まったお腹。むちむちとした肉付きの良い脚は薄手の黒タイツに覆われ、見せつけるように晒されているそのまたぐらには当然のように膨らみが無い。
普段のコスチュームとはかけ離れた卑俗で煽情的なデザインでありながらも、彼女の頭部には魔法少女の証であるハートをあしらったヘアバンドが装着されていて――未だまともに回らない頭でようやくその事態を飲み込んだ男は、震えるような声で絞り出すように呟いた。

「もしかして……わ、わたし、なの……?」
「おいおい、何を寝ぼけたこと言ってんだ?どこからどう見ても俺は麗しの魔法少女様じゃねえか。お前みたいな奴と一緒にされちゃあ困るぜ。……なあ、雑魚デブ戦闘員のおっさん♡」

あまりの絶望で言葉を失う『戦闘員の男』と、そんな彼に向けて自らの肢体を見せびらかすようにポーズを取る『魔法少女アオバ』。
二人の魂は暴走した魔道具によって入れ替わっていた。



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